【随時更新】出版のお知らせ——西周・津和野関連本×3

 9月の頭に携わった本が3冊出版されることになりましたので、お知らせです。たくさんの方のご協力のお陰で、こうして成果物を世に問うことができて大変嬉しく思います。

 『西周と「哲学」の誕生』と『西周 現代語訳セレクション』は、異なる版元がタッグを組んで同時公刊となっています(以下、便宜的に前者を入門書、後者を現代語訳と呼びます)。両方の表紙のイラストはGACCOHの太田陽博さんに手掛けていただきました。入門書では「ことばの人 西周」に焦点を当てていることもあり、洋書や和綴本が混ざり合いながら連環している様子は、江戸と明治を生き抜いた西周の世界観にぴったりだと思います。他方で、現代語訳の表紙は、津和野という地名の由来と言われるツワブキの瑞々しい葉(表面)と名勝である太皷谷稲成神社の赤い鳥居(裏面)のコントラストが見事で、西周の原風景がぎゅっとまとまった魅力的なデザインとなっています。
 姉妹本として企画したこともあり、可能であればぜひセットでお買い求めいただき、入門書→現代語訳の順番で進んでいただけると、西周の思想世界をより深く・多角的に理解できると思います。「その先」については、拙著末尾に収録した「もっと西周を知りたい人のためのブックガイド」をご参照いただけると良いのかなと。
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 ※現在、各種イベント類も企画中です。時期が来たらこのページに追加していきます。どうぞよろしく。
 ※以下書籍タイトルのリンク先は版元ページです。
 ※加筆更新:2019/09/16

 まさか初の単著が西周の入門書になるとは自分でも予想しておりませんでした。
思想家、将軍のブレーン、官僚、教育者、政治家と様々な「顔」を持ち、捉えがたい西周ですが、本書では、翻訳と哲学・日本語学・軍事論の3つの観点から彼の思想や活動を捉え直し、改めて「現実と格闘したことばの思想家」としての西周像を打ち立てんとしたものになっています。なお、この本の内容は、GACCOHさんでの講義「やっぱり知りたい!西周」が元となっており、概ね第1〜3回の講義内容が本書の第1〜3章に対応しています。以下、概要説明です。

 第1章では、哲学者としての西周をテーマにしています。最初に、西周や出身地である津和野の紹介をしたのち、有名な訳語「哲学」の翻訳作業に着目し、訳語の変遷やそこに隠された格闘のドラマを追うことで、西による翻訳という行為の内実に迫りました。さらには、翻訳行為を通して、哲学者としての西周像を浮かび上がらせるよう努めたつもりです。

 西周は、「哲学」をはじめとして、多くの学術用語を漢字熟語のかたちで翻訳した一方で、漢字の廃止や日本語のローマ字表記を推進していました。第2章では、あまり注目されない西周の日本語論に焦点をあて、西が時代の課題に向き合いながら、どのような日本語を追い求めていたかを探りました。その上で、漢字による西洋語の翻訳と漢字廃止論という西周の二つの言語実践を扱い、矛盾や錯綜にも見える態度を一貫して捉える視座を与えようと試みました。この意味で、第1章と第2章はセットとも言える内容になっています。

 第3章は、主に官僚としての西周の仕事をメインに扱っています。のちに軍国主義の端緒として批判される悪名高き「軍人勅諭」 は、たしかに西が起草したものです。しかし、その草稿は西の手を離れた後、いくつかの加筆や修正が加えられることになります。「軍人訓戒」や「軍人勅諭」などのドキュメントの変遷を追うことで、決して軍国主義的ではない、西の軍事社会論のユニークな特徴を捉え直し、西を秩序を希求した法思想家として提示することを目指しました。

 拙著は、数多くある西周の相貌のごく一部を扱ったものです。近年の日本哲学研究や日本政治思想史研究の成果を踏まえつつも、メジャーな学説紹介というよりは、西周への批判に応答しつつ、彼のポテンシャルを活かすべく、私自身の解釈筋を押し出したものとなっております。この狙いが上手くいっているかは読者のみなさまの判断を仰ぎたいと思いますが、哲学だけでなく、日本思想、幕末維新史、政治思想史、日本語学などのジャンルに関心がある方にも届くといいなと思っています。

 なお、堀之内出版のウェブストアでは、予約購入すると数量限定で西周の故郷津和野の特産品(柚子七味orまめ茶)がおまけでもらえるキャンペーンをやっているそうです(すでに柚子七味の方は完売)。ちなみにこのまめ茶、カワラケツメイという植物のお茶でして、津和野では古くから日常的に愛飲されています。ノンカフェインで香ばしく、ほんのり甘くて美味しいです。西周森鴎外も飲んでいたであろう「いつもの味」を体験できます。 ※完売しました。
https://info1103.stores.jp/items/5d4a16044c80643067df40ef

第2弾?として、拙著と山岡浩二『明治の津和野人たち』の津和野予約特別セット限定20組が30%OFFという大変お得なキャンペーンをやっています。ブックガイドにも載せていますが、ぜひ拙著と一緒に読んでほしいのが、この山岡浩二『明治の津和野人たち』です。著者の山岡さんは私にとって「津和野の師」とも言うべき存在で、本書は山岡さんがこれまで丹念に資料を猟歩して得た研究成果を一冊にまとめたものになっています。なぜ山間の小藩から西周や鴎外が輩出されたのか、その背景を知ることができます。
https://info1103.stores.jp/items/5d651bcc65d32651ff82419d

目次

はじめに
凡例
第1章 西周と「哲学」の舞台裏
1. 西周と津和野/2. 百面相としての西周/3. 翻訳として/4. 「哲学」への道のり/5. 訳に三等あり/6. 「哲学」の誕生/7. 「哲学」の真意とその後/8. 翻訳者か、哲学者か/9. 言語観の矛盾!?
第2章 新しい「日本語」を求めて
1. 日本語論者としての顔/2. 国語・国字論争/3. 音への着目/4. 「日本語」の模索/5. もう一つの分裂!?
第3章 秩序の生成へ
1. 官僚か、思想家か/2. 学者職分論争/3. 職務への不満と役割分担/4. 消された草稿/5. 軍人のエートス/6. 秩序の生成へ/7. 西周に責任はあるか
おわりに
参考文献
もっと西周を知りたい人のためのブックガイド
西周略年譜

イベント
  • やっぱり知りたい!西周リターンズ&在野ビギナーズ

・日時:10月6日(日)13:00〜17:00
・場所:オンガージュ・サロン(大阪市天王寺区勝山3-9-5)
※詳細は以下参照。
www.gaccoh.jp

  • 「日本の哲学/日本語と哲学:言葉と思想を巡って」

・日時:10月29日(火)19:00~
・場所:代官山蔦屋書店
・参加条件:書籍付き参加券または、イベント参加券。
※詳細は以下参照。
store.tsite.jp


 私は訳者ではなく、企画の発案と内容の構成を担当し、「企画者あとがき」を寄せています。著者(訳者)ではなく、事務方として出版に携わることで見えてきた側面もあり、大変勉強になりました。

 「日本哲学の父」とも称される西周ですが、残念ながら現在の日本のいわゆる哲学科ではほとんど読まれていないように思われます。かくいう私も学部の頃からずっと哲学専攻というところに在籍していましたが、西周の名前は知っていたものの、恥ずかしながら津和野へ行くまで彼のテクストを読んだことはありませんでした。

 一般に、「日本哲学」と言うと、西田幾多郎以来の京都学派が中心で、それ以前の人がメインで取り上げられることは稀だと思います。もちろん、そこには各大学の教員の専門やカリキュラム、学風、流行など様々な理由が考えられますが、西周の日本語と現在の我々に馴染みのある日本語との間に大きな隔たりがあることが一番の要因となっているのではないかと思います。彼の文章は漢文混じりであったり候文であったりと、西洋哲学をメインに研究している者(というより、近世から明治初期の文章を読む訓練を積んでいない人)にとっては、かなり読みづらいものになっているからです。

 そんな状況を踏まえ、本書はより多くの人に西周の文章を読んでもらうことを目的に出版されました。より詳しい出版の経緯については、菅原先生の「はじめに」をぜひお読みください。日本政治思想史を専門とする先生の研究者としての真摯さに貫かれたこの「はじめに」を読んで、わたしは目頭が熱くなりました。

 本書では、西周のとりわけ哲学や思想の分野における代表的な業績とも言える6つのテクストを選んでいます。それぞれの文章のポイントを説明してくれる解題に加え、痒いところに手が届く丁寧な訳注も要所要所で付されており、西周が置かれていた当時の文脈を踏まえつつ、彼の思想がもつ現代的な意義やポテンシャルを今一度考え直すための貴重な材料を提供してくれる一冊になっていると思います。「西周の文章にもっと触れたい!けれど、漢文や儒学の背景知識には自信がないし、読めないよ…」という人にピッタリです。

目次

はじめに
凡例
第1章 徂徠学に対する志向を述べた文
第2章 某氏に復するの書
第3章 百一新論
第4章 洋字を以て国語を書するの論
第5章 教門論
第6章 人世三宝
企画者あとがき

イベント
  • 菅原 光「西周を読む:日本近代の思想と歴史」

・日時:2019年10月9日(水) 19:00~20:30
・場所:朝日カルチャーセンター新宿教室
※詳細は以下参照。
www.asahiculture.jp


[asin:4750348856:detail]
socio-logic.jp

 私は第13章「地域おこしと人文学研究」(と「在野のための推薦本」に担当分として3冊の紹介文)を寄稿させていただきました。上の2冊がそれぞれ私の津和野時代の研究や業務の成果だとしたら、本書の原稿はその舞台裏やモチベーションを明かすものになっています。首都圏で生まれ育ち、現代フランス哲学を専攻していたやつがなぜ急に島根の小さな町へ行き、どんな思いでいかなる仕事をしていたのか——少し恥ずかしいところもあるのですが、その内容を率直に語ったつもりです。

 とはいえ、単なる個人史に終始したつもりはありません。津和野での活動を通して(自分の人生を実験台にして)、大学改革や地方創生の流れに迎合も拒絶もしない仕方で向き合うことで、(1)広い意味での「研究者」の新たな働き方や(2)地方における人文学の可能性を主題としました。

 少子化や大学改革、研究者のワーキングプアなど、日本のアカデミアには問題が山積みです。経済的な理由から研究者の夢を諦める——そんな人も多く見てきました。しかし、研究は必ずしも大学の専売特許ではないはずです。本書では、立場も専門も異なる「はぐれもの」(褒め言葉のつもりです)が計15名登場し、それぞれが研究のオルタナティブライフハック、ないしは生き様を披露してくれています。また、本書は、現実的な問題(経済的、社会的、制度的, etc.)を目の前にして、なんとかそれらと向き合ったりかわしたりしながら、「やりたいことをやっていく」ための事例集としても読めると思います。正解もセオリーもないテーマなだけに、読者の方がそれぞれご自身の興味関心(研究対象や分野)やライフスタイルに合わせて、取捨選択・アレンジして活用していただけるとよいのではないかと思います。
しみったれた令和ジャパンにインディペンデントなやっていきをお届け!

目次

序 あさっての方へ
第一部 働きながら論文を書く
第一章 職業としない学問/酒井大輔
第二章 趣味の研究/工藤郁子
第三章 四〇歳から「週末学者」になる/伊藤未明
インタビュー1図書館の不真面目な使い方 小林昌樹に聞く
第四章 エメラルド色のハエを追って/熊澤辰徳
第五章 点をつなごうとする話/内田明
第二部 学問的なものの周辺
第六章 新たな方法序説へ向けて/山本貴光吉川浩満
第七章 好きなものに取り憑かれて/朝里樹
第八章 市井の人物の聞き取り調査/内田真木
第九章 センセーは、独りでガクモンする/星野健一
第一〇章 貧しい出版私史/荒木優太
インタビュー2 学校化批判の過去と現在 山本哲士に聞く
第三部 新しいコミュニティと大学の再利用
第一一章 〈思想の管理〉の部分課題としての研究支援/酒井泰斗
第一二章 彷徨うコレクティヴ/逆卷しとね
第一三章 地域おこしと人文学研究/石井雅巳
インタビュー3 ゼロから始める翻訳術 大久保ゆうに聞く
第一四章 アカデミアと地続きにあるビジネス/朱喜哲
在野のための推薦本

イベント
  • 荒木優太さん×熊野純彦さん トーク&サイン会「困ったときの在野研究入門~世代と立場を超えて~」

・日時:2019年9月13日 (金) 19:00~20:30(開場時間18:00)
・場所:八重洲ブックセンター 本店 8F ギャラリー
※詳細は以下参照。
www.yaesu-book.co.jp