2017年12月の本

今月の本です。師走です。寒いです。
これで一応「今月の本」はなんとか一年やり通したことになる。
ブログを続けるなんてことを今までしてこなかったので、妙な達成感がある。

これも都心を離れて、研究者の先輩やら同期と「最近何読んでんの?」とか「◯◯先生の『☓☓』ってのめっちゃおもしろいよ」みたいな会話ができない寂しさや、珍しいことに、新しい関心分野ができた自分の記録をつくっておきたいという思い、あと「俺は学問を諦めてねえぞ」というアピールしたさ等々により、この「今月の本」は続いたのかなと。

「今月の本」のルール

  1. 毎月読んだ本をリストにしてブログを更新。
  2. 読んだと言っても、必ずしも全頁を読みきったことは意味しないし、再読したものもある。
  3. とはいえ、必ず入手し、本文に少しでも目を通すことが条件。
  4. コメントを書くかどうかは時間と体力次第。

にほんのあたまがいい人たちの論文がたくさんよめる。
まずは、倫理学にかかわる二本と野家・飯田の大御所論文は読んだ。
最近史学系の人々と交流するなかで、私の学問観というのも微妙に変化してきているが、まあこれは長くなるので今度にでも。
とはいえ、どれも珠玉の論文ばかりですね。

[asin:4480843140:detail]
上の『現代思想』と一緒に購入。まだ正直手をちゃんとつけていない。
プラトン的な対話篇を書くというのは非常に勇気のいることだと思うが、その形式についても序の部分で語られているので、まずはそこからゆっくりと読みたい。

  • ダン・ザハヴィ『自己と他者―主観性・共感・恥の探究―』

[asin:4771029237:detail]
学部の頃にレヴィナスをところをつまみ食いした記憶がある。この度めでたく邦訳が出た。
これで信頼と実績のザハヴィ大先生の主たる単著は、結構な数日本語で読めることになったのではないだろうか(あとはSubjectivity and Selfhoodくらいか?)。
これから現象学を勉強する人は、『WM現代現象学』もあるし、環境が良すぎて逆に大変なんじゃないかといらぬ心配さえしてしまう。
じゃけんみんなレヴィナス読みましょうね、レヴィナス

  • 伊東 潤『死んでたまるか』

[asin:410331852X:detail]
知人から話を聞いて読んでみた。私は歴史小説というものをほとんど読まないので、久しぶりの一作。
主人公の大鳥圭介(1833-1911年)は西周とほぼ同世代の人物。
医師の家系にあって、蘭学を学び、のちに本格的に洋学を志ざし、その後中浜万次郎に英語を学んだり、福沢諭吉勝海舟榎本武揚とかかわりがあったり、蕃書調所・開成所に勤務していたり、軍事学に詳しかったり、晩年は東京学士会院会員や元老院議官を務めたりなどなど重なる部分も多い。この作品に西は登場しないが、当然面識はあったろうと思う。
やはり大きく違うのは、殺し合いを実際にしたか否かだろう。
戊辰戦争の際、西は既に徳川慶喜の側近として行動をともにしており、要するに新政府との戦いを諦めた(もっと言うなら途中で逃げた)側にいたが――当然、西は侍ではないので戦っていない――、大鳥は江戸幕府におけるフランス式兵学の専門家という立場もあって、最後まで榎本、土方らとともに箱館戦争まで戦い抜いた。

  • 唐沢 かおり『なぜ心を読みすぎるのか:みきわめと対人関係の心理学』

[asin:4130133101:detail]
読みたいと思いつつ、手を付けられていなかった一冊。
他者を理解するということはいかなる事態なのかは、当然レヴィナス研究の本丸と言っても良い問いだ。そこには、他者とはなんであるのか?や理解とはいかなるものか?という難問を当然含んでいるし、仮に他者理解が不可能であるとしても、その不可能性とはなんなのかもまた取り上げるべき問いとなる。
レヴィナスは(素直に読めば)ある種の反心理主義・反精神分析主義者であり、彼の議論はややこしい前提なども含まれていることもあって、これまで私はそのテクスト解釈を専ら哲学と言われる領域であーだこーだ考えてきたわけだが、もちろん他分野の議論も気にならないわけではない。本書は、社会心理学ないし認知心理学の知見を紹介しつつ、他人の心というやっかいだが、どうにもそそられる問題に挑んでいく。後半以降はなかなか専門的な内容になっていくが記述が明晰なのでありがたい。対人評価や推論、道徳的判断の話なんかはとくに興味深かった。

[asin:4480097457:detail]
歯車理論の問題に関心があり、遅ればせながら購入。
西周の軍事関連の行動をどう評価するかは難しい。彼の仕事を軍国主義の萌芽ないし先駆と見做すような解釈はアナクロニズムをおかしているようにも思えるが、同様に官僚としての側面を押し出し、彼の無責任をただ擁護するのみでは日本近代における軍隊と政治の問題は片手落のままであるとも思える。アナクロニズムと歯車の間で、いかに西のなしたことを解釈するかという問題を考えあぐねていたところで、アレントの諸論考が道標になればと思い、読んでいる。

  • Graham Harman, Weird Realism: Lovecraft and Philosophy

[asin:1780992521:detail]
ハーマンのラヴクラフト論。これを年明け以降、津和野メンツで読む予定。
ラヴクラフトクトゥルフにはこれまであまり触れてこなかったが、この辺りは他の参加者が詳しいのでなんとかなるといいな。

かのゴンクール賞作家であるウエルベックのデビュー作。上のハーマンの著作の予習がてら購入してみた。ラヴクラフト愛が迸る一冊で、軽快な訳文のお陰もあり一気に読めた。
本書にはスティーヴン・キングによる序文「ラヴクラフトの枕」がついているが、これが傑作で、これだけのためでも買ってよかったと思わせる。正直、ウエルベックの論自体にはキング先生のものほど興奮しなかったが、彼はラヴクラフト唯物論者としての側面にこだわっており、この路線はもしかしたらハーマンのものにも響くのかなと予想したり(まだ読んでない)。