2018年5月の本

GW&久々の東京出張は充実した時間を過ごすことできた。
そのため、良くも悪くも気がついたら月末という感じ。
ただでさえ普段から湿度の高い地域なので、これからの梅雨がやや憂鬱。

「今月の本」のルール

  1. 毎月読んだ本をリストにしてブログを更新。
  2. 専門的な論文などは除く。
  3. 読んだと言っても、必ずしも全頁を読みきったことは意味しないし、再読したものもある。
  4. とはいえ、必ず入手し、本文に少しでも目を通すことが条件。
  5. コメントを書くかどうかは時間と体力次第。

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本書の特徴を示しているであろうあとがきの言葉を引用したい。

もう一つ、本書に関することで触れておかねばならないことがある。先行研究や参考文献への言及がない点である。これは私の我が儘からきている。それは、テクストを虚心坦懐に読んで、これまで培ってきた自分のもっているものだけを頼りに、レヴィナスにおいて考えられたことと考えられなかったことにどこまで迫れるか試してみたいという願望に基づいてのものである。決して、先行研究や参考文献を軽視している訳ではないことをあえて付言しておきたい。 p. 175

我が儘なら仕方ないかあ 公刊著作がもつテクスト内在的な議論構成を吟味する努力を怠る悪しき例もそれなりに存在するし、テクストと裸一貫で向き合う試みのがすべて悪いとは思わない。とはいえ、先行研究への目配せなしに、専門家がそうした読解を*研究*として提示する場合、それなりに理由が必要なはずだ(要は参考になるものが一切ないような革新的なテーマであるとか、新領域であるとか)。

残念ながら、本書にかんして言えば、先行研究がそれなりにあるテーマであり、内容的にも特段細やかでも革新的でもないという感想をもった。それゆえ、仮に先行研究を読んでおり、そこから何かしらの知見を得ているにもかかわらず、肯定的にであれ否定的にであれ一切言及しないのは不正であるし、かと言って先行研究をほとんど読んでいないのなら、それは研究蓄積を軽視していると言われても仕方ないだろう。たとえば、「ヒトラー主義哲学に関する若干の考察」については渡名喜さんが精力的に論文で扱っているし、最初期にテクストについては、合田先生のみならず、近年では藤岡俊博『レヴィナスと「場所」の倫理』でも緻密な研究が提示されている。また、初期テクストの瞬間の問題を扱うなら、Gérard Bensussan, Le temps messianique: Temps historique et temps vécu(欲を言えば、それを踏まえた拙論も)を、身体の問題を扱うなら少なくともCalin Rodolphe, Levinas et l'exception du soiを踏まえるのはほぼ「常識」だが、一切言及もなければ読んで吟味した痕跡もないのはいかがなものか。さらに現在では40-50年代にかけての草稿や講義メモ(Œuvres complètes t. 1; 2)も出版されており、研究も徐々に蓄積されてきている(Levinas : au-delà du visibleなど)。もし前期レヴィナスの思考の生成を扱うなら、このあたりも踏まえて良いはずだ。加えて、身体の問題と言いつつも本巻はほぼ時間論がメインである。このあたりも本来なら、なぜ身体論を掲げつつも、時間論に立ち入るのかについてもっと説明が欲しいところ。

今後も続刊が予定されているようだが、一体誰に向けて書かれているのかという疑問を持たざるをえない。少なくとも国内外の先行研究とともにレヴィナスを読んでいる研究者には響かないと思われるし、前提知識や背景の導入を丁寧にしているわけでもないので初学者にも勧められないだろう。

  • 山岡 浩二『明治の津和野人たち』

微力ながら私も製作にほんの少し協力させていただきました。以下、Facebookに書いたものを転載します。

私の津和野における師でもある郷土史家の山岡浩二さんのご著書『明治の津和野人たち』(堀之内出版)をいただきました。
激動の時代に、なぜ山あいの小さな藩から、武ではなく文で活躍する多くの者たちが輩出されたのか。小藩における人材育成の苦難の歴史は、今の日本の状況を考える際のヒントになるかもしれません。
「津和野ってどこ?」「なにがすごいの?」という初心者の方から、鷗外や西周を生んだ土地に根付く文化や思想をじっくり知りたい!という人にもおすすめです。
ちなみに、版元である堀之内出版さんのwebストアから買うと、弊団体も製作に参加している『blueprint(ブループリント)』が付いてきます。→ https://info1103.stores.jp/items/5ad424c95f786637ce002ac9

  • 加藤 治郎『Confusion』(いぬのせなか座 山本浩貴+hレイアウト)

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私は現代短歌や現代詩には疎いからゆっくりとしか進まなかったが、その分普段とは異なる読書体験をすることができた。
歌人・詩人における改行という作業の重みを加味すれば、不思議な共著と言っても良いかもしれない。いぬのせなか座に託した加藤治郎さんと、そしてそれを引き受けた山本浩貴+hさんの勇気にまずは感服した。

加藤さんによるテキストを山本さんがレイアウトするというかたちで行われたようだが、単に指定された通り綺麗に整えたのでは全くない。視覚的にも楽しめますというやわなものでもない。大胆なレイアウトが一つの解釈行為であり、表現行為に(否が応でも)なって(しまって)いる。当然これは大きな賭けであろう。加藤さんの言葉を読みたい/聞きたいのに、ノイズが入っているという批判など端から承知のはずだ。これに他の歌人・詩人はどう応えるか、あるいは当の加藤さんがどう応答しているのか。関心がある。

山本さんのレイアウトにかんして。その特徴を一言でいえば、縦書きと横書き、そして幾種類かの区切り線を縦横無尽に使うことだろう。その背景にある思想についてもっと訊きたいなと思ったが、私なんかは西周の「百学連環」の覚書を想起した。当時縦書きが当たり前だった漢字文化圏に横書きの西洋文明が混入したとき、両者をいかに記述するべきか。日本語というものの新たなかたちが問われたときだったろうと思う。実際、西は上の草稿メモで、縦書きと横書きを何通りも組み合わせて試行錯誤している。山本さんによる一見不必要なまでの切断と縦書きと横書きの応酬は、あれから約150年たったいま再び日本語の新しいかたちを模索しているのかもしれないなどとも。

cf. 西周「百学連環 覚書」の一部
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「言葉の力」という特集に惹かれ、いぬのせなか座も取り上げられていたため購入。
TOLTAのお二人のインタビューといぬのせなか座による現代詩アンソロジーが良かった。後者は余白と図形の配置からマレーヴィチを連想した。戦前の前衛詩ないし視覚詩における言葉の物質性という文脈をどこまで引き受けるのか、あるいは別の関心なのか、はたまたテクノロジー一般と創作は本質的な関係にあるのかないのか、そんな問いが浮かぶ。

  • 小林 和幸(編)『明治史講義 【テーマ篇】 』

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こちらは幕末維新というよりは、明治の最初から大正政変までを扱ったもの。
特徴としては、比較的若い世代の研究者が執筆しており、テーマごとに独立して読むことも可能なところだろうか。
各分野のスペシャリストによって最新の研究がコンパクトにまとめられているので、自分の常識をざっと更新できるのはありがたい。関心があるところだけを読んでも良いだろう。

  • 内田 貴『法学の誕生』

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穂積陳重・八束がメインではあるけれども、西周津田真道も登場。
西洋の法学を受け入れつつも、そこでいかに日本の伝統を正当化するかという問題が扱われている。まだ途中なのでコメントはこのくらい。

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『荒地』はなんだか少し前から気になっていたので、新しい文庫が出たとのことで購入。
初心者には、巻末の深瀬基寛氏の概説と阿部公彦氏の解説が嬉しい。

  • 山田 正紀『カムパネルラ』

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太田くんから教えてもらった。まだ読み途中。『銀河鉄道の夜』は度々賢治による加筆や修正が施されており、とりわけ第三稿と第四稿の大幅な変更は有名だ。本書では、むしろ第三稿が最終稿となった世界が描かれている。つまり、やや道徳的な内容が顕著であり、セロのような声をしたブルカニロ博士が物語のなかで大きな役割を占めており、カムパネルラは川で溺れた友人を助けないし、ジョバンニの父は帰ってこない。物語の現実世界と宮沢賢治の時代と賢治の作中世界とが混ざり合う奇妙な空間となっている。賢治読みは楽しめるのではないか。

2011年にトゥールーズで行われた『全体性と無限』刊行50周年記念コロックの論集。
類書に比べやや遅れての刊行となったが、イタリア人哲学者のLanza del Vastoや人類学、ニーチェなど、ややマイナーなテーマを扱った論集となっている。個人的には各テーマの比較研究よりは、TIという書物の構造に焦点を当てた研究を探していたところだったので、あまり読み込めてはおらず。

  • Graham Harman, Object-Oriented Ontology

ハーマンの新刊。ふと寄った丸善にあったので、某所での発表のために購入。
まだほとんど読めていないが、まあ暇を見つけて。