2018年3月の本
光陰矢の如し。3月の本です。今月は原稿類が諸々あるなかでは結構目を通せたか。
哲学の一次文献(できれば古典)を数人でゆっくり味わうように読むことほど楽しい時間はないなあと改めて思う。
いよいよ新年度がはじめる。
「今月の本」のルール
- 毎月読んだ本をリストにしてブログを更新。
- 専門的な論文などは除く。
- 読んだと言っても、必ずしも全頁を読みきったことは意味しないし、再読したものもある。
- とはいえ、必ず入手し、本文に少しでも目を通すことが条件。
- コメントを書くかどうかは時間と体力次第。
- 田上 孝一『環境と動物の倫理』
とりわけベジタリアニズムについてまとまって頁が割かれているのが特徴か。手際の良い整理で、はじめの一冊としておすすめできる。
- コーラ・ダイアモンドほか『“動物のいのち”と哲学』
田上先生や伊勢田先生の『動物からの倫理学入門』を読み直した上で、こちらに進んだ。
クッツェーの「動物のいのち」を巡っての論集というかたちになっている。
まだダイアモンドのものしか読めていないが、一通りさらっておきたい。
- 三宅 陽一郎・山本 貴光『高校生のための ゲームで考える人工知能』
ゲームの作成という実践を通して、人工知能を分かりやすく解説してくれる好著。人工知能を題材とすることで、我々人間の知性や感覚、行為ってなんだろう?という哲学的な事柄についても考えさせる内容になっている。私自身まったくの門外漢だったので勉強になった。
また、本書には「分からない問題」に直面した際に、どのように手やアタマを動かせば良いかという識者のTipsとでも言いえるコツがふんだんに盛り込まれている(賢い人はひとりでに習得するが、そうでなければ実際に教えてくれる先輩が身近にいないとなかなか掴めないものである)。ぜひ中高生に広く読んで欲しいと思った。
- 山内 志朗『目的なき人生を生きる』
[asin:4040821343:detail]
これまでも山内先生の本は一通り読んできた。マイ・ベストはもちろん『[asin:4582851037:title]』である。氏の言葉の魅力はなにか。それは、鋭さだけで世界を切り裂いてやろうとする若者の薄くて脆い牙が折られることへの慈しみであり、とはいえ、牙そのものを抜かれることはよしとせず、代わりに鈍いが酸いも甘いも噛み砕いて味わえる臼歯をもつことの勧めである。
私が偶有性を語り、それを秘訣の如く語るのは、私自身、留年や落第を何度もして、その過程の中で私を助けるものが与えられてきたという経験があるからだ。順調に生きてきたら、私はラテン語もスコラ哲学も修得することなく、通り過ぎたと思う。存在の速度には挫折が含まれている。
— 山内志朗 (@yamauchishiro) 2018年2月12日
本書にもところどころに滋味深い記述もあるし、偶有性の問題も興味深い。しかしながら、やや攻撃的で説得的でない表現の数々に頁をめくる手が途中で止まってしまった。
- 斎藤 慶典『「東洋」哲学の根本問題 あるいは井筒俊彦』
[asin:4062586711:detail]
サバティカルの成果のうちの一冊が井筒論であることは、以前お会いした際に聞いていた。
井筒のなかで十分に問われることになかった次元を指摘し、自身でその問いを深めていく筆法で、メチエから出てはいるが、入門書や解説書ではなく、井筒俊彦に一人の哲学者が立ち向かった骨太の一冊。
・存在の階層構造を「基づけ(Fundierung)」で明確化すること
・世界はなくてもいっこうにおかしくないのに、なぜか「ある」という地点に問いを立てること
・その際、端的に「ある」としか言い得ない領域まで下降して存在を理解しようと試み
・「ある」の直下に「ない」を見定め、その深淵に対峙すること
など、氏ならではの哲学が、井筒という巨大な知性とともに展開されている。
私自身が井筒のテクストにがっぷり四つに向き合ったことがないために、満足な批評はできないものの、本書を読むことで、フッサール、ハイデガー、レヴィナスがほんとうに氏の血肉となっている様に改めて気づかされ、妙な感慨とともに読んだ。
- 高坂 正顕『明治思想史』
- 松本 三之介『明治思想史―近代国家の創設から個の覚醒まで』
- 岩崎 允胤『日本近代思想史序説 明治期前篇〈上〉』
- 濱田 恂子『入門 近代日本思想史』
[asin:448009508X:detail]
年度末ということもあり、今一度いわゆる明治思想史の概説書をさらってみた。
やはりこの時代では、福沢諭吉、中江兆民、植木枝盛、徳富蘇峰、内村鑑三、陸羯南らがそれぞれの分野のスターであり、西周は取り上げられることはあっても、割かれる頁は少ない。かと言って、日本哲学となると、やはり京都学派がメインになってしまう。
それぞれ西周に割かれた頁を数えてみると、
・高坂:35p
・松本:13p
・岩崎:92p
・濱田:8p
という具合である。
明治だけで4冊ある岩崎の大著を別にすれば、割かれる割合は非常に低い。西周を中核に据えるような思想史は描けないものか…
[asin:4309463266:detail]
hontoのポイントが失効しそうだったのでポチった。某原稿の合間にパラパラとめくる。
迸るパッションが感じられる訳文。こうなると原書を横に置きたくなるが、どの版が良いのか分からずとりあえずはネットで漁るなど。
ちなみにレヴィナスの主著『全体性と無限』の第一部は、「La vraie vie est absente(本当に生活が欠けている)」というランボーの詩の一節からはじまる。ちなみに、この鈴木訳では「真の生活がないのです」と訳されていた。
- 『鴎外全集』全38巻(岩波)
「西周伝」が所収されている第3巻などは既に持っているし、職場などにはあるのだけど、やっぱ手元に欲しいなあと思い購入。
ヤフオクで5千円でした。しかしいざ届いてみると結構な迫力で……
全部業者に投げて電子化しちゃおうか悩んでいる。
まだまだ勉強会もはじまったばかりなので、しっかりと読めていないが、痒いところに手が届く感じ。
たとえば、一緒に読んでいる方が教えてくれた箇所だけど、
Axiome VI: Idea vera debet cum suo ideato convenire.
[Pautra] L'idée vraie doit convenir avec ce dont elle est l'idée.
[Caillois] Une idée vraie doit s'accorder avec l'objet qu'elle représente.
[畠中] 真の観念はその対象[観念されたもの]と一致しなければならぬ。
という感じ。厳密に言えば、原文にreprésenterにあたる語はないので、批判はあるのかもしれないが、言わんとすることを教えてくれる。
- Ferdinand Alquie, Leçons sur Spinoza
[asin:271038244X:detail]
こちらも『エチカ』勉強会用。副読本扱い。
- Leibniz, Discours de métaphysique, suivi de Monadologie et Autres textes
[asin:207032964X:detail]
どうせAmazon. frで頼むならついでにということで。『エチカ』が終わったらこれに進む…かもしれない(数年後)。
- Jocelyn Benoist, L'adresse du réel
[asin:2711627500:detail]
ついでながら注文。ブノワの書くものは、内容もさることながら文章も非常に難しい。とはいえ、なんとか頑張ってついていきたいと思っている現役研究者の一人。Eléments de philosophie réalisteなどにおける彼独自の実在を巡る議論ではレヴィナスも登場し、ごく僅かながら拙論でも取り上げたことがある。
とはいえ、本書では残念ながらレヴィナスは登場しない。代わりにと言ってはなんだが、メイヤスーやガブリエルらSRの面々が取り上げられている。これまで独自の磁場においていわゆる大陸哲学と分析哲学をともに自らの糧としてきた大家が昨今の実在論をいかに取り上げるかは興味深いのではないかと思う。
- Le Gaffiot de poche. Dictionnaire Latin-Français
[asin:2011679400:detail]
まあこれもついでに買っておくかという感じでポチ。時々眺めたりするかもしれない。