2019年2・3月の本

あっという間に春が来て、花粉が辛いです。
4月から博士課程に進むことになりました。どうぞよろしく。
2月には試験があり、3月は原稿祭りだったので今回は二ヶ月まとめて駆け足でのエントリーです。

「今月の本」のルール

  1. 毎月読んだ本をリストにしてブログを更新。
  2. 専門的な論文などは除く。
  3. 読んだと言っても、必ずしも全頁を読みきったことは意味しないし、再読したものもある。
  4. とはいえ、必ず入手し、本文に少しでも目を通すことが条件。
  5. コメントを書くかどうかは時間と体力次第。
  • 『みすず』2019年1・2月合併号

www.msz.co.jp
恒例の読書アンケート号。ここ数年はtwitterなどでほとんどの新刊書籍をチェックできるので、「こんな本が出ていたのか!」という驚きは薄れてきているが、それでも様々な分野の碩学たちによるコメントとともに読むのは楽しいひとときである。
この欄をどう使うかにかなりセンスが出るなあと思っており、
・自分の分野の信頼できる新しい入門者や教科書を推す
・専門的でコアな本だが、質が高いものを知らせる
・現代を取り巻く問題を直視し、ともに考えるための一冊を提示する
・愉しみのための読書を分かち合う
なんかを載せるのがセオリーだし、『みすず』の読者にとっても有益だと思う。ところが、たまに自分の専門分野の洋書をひけらかすように並べているだけ人もいて、興が冷める。研究者が自らの分野の専門書を読むのは当然であって、前提知識を共有しているわけでもない一般読者にそれを見せて一体何になるのか。もちろん、洋書を出すなとか専門書を出すなというわけでない。しかし、学会誌の書評セクションではなく、『みすず』の読書アンケート号でそれをやるのは、自分の読書の幅の狭さを曝け出しているだけであるのに気づかない人もいるらしい。
挙げられたもののうち、ぜひ読みたいと思った5冊を挙げると、『[asin:4121024656:title]』、『[asin:4879843644:title]』、『[asin:4309624235:title]』、『日本の同時代小説 (岩波新書)』、『[asin:4622087219:title]』あたりだろうか。

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前々から買おうとは思ってはいたのだけれど、ようやく手にした。リクールを読んでいるときによく参照されることもあり、アームソン先生([asin:4006001258:title])なんかを片手にこれを期に少しずつ読み直そうと思う。

  • 西口 想『なぜオフィスでラブなのか』

いただきもの。
言われてみれば、自然なそうで不自然な労働と恋愛の混合(オフィスラブ)について、数々の小説を題材に語られるもの。時代を映す鏡としての小説読解とそこから筆者独自の視点を析出する論の建て方といい、労作であると思うが、気負わずに読める軽やかさも纏っている。いろんな人におすすめ。春だし。

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ユダヤ教研究の碩学による入門書。歴史・信仰・学問・社会という4つの視点からバランスよく、ユダヤの歴史や営みを知ることができる。巻末の文献案内も充実しているので、今後はまずこの一冊からということになるだろう。

  • 亀井 大輔『デリダ 歴史の思考』

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気鋭のデリダ研究者による一冊。
タイトルの通り、デリダの歴史にかんする思考が主題だが、歴史がデリダが数多く論じたテーマの一つではなく、むしろ中心的なものであり、それを縦糸にデリダを読解せんとする姿勢は、デリダレヴィナスに、歴史を時間に置き換えれば、私の目指すところであるので、内容のみならず、その筆法からも多くの学びがあった。

  • 荒木優太『無責任の新体系──きみはウーティスと言わねばならない』

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連載が元となった一冊であり、レヴィナスへの言及もあるとのことで購入。レヴィナスについては、とりわけ第6章で扱われているが、日本のレヴィナス受容の一側面に沿って彼の思想を説明しており、意外にもこういうかたちで語られることはなかったために新鮮だった。荒木さんらしいスピード感溢れる文体でぐいぐいと読ませられるし、偉そうことを言えば、最近は様々な文芸や思想を貪欲に摂取して現実を語るような批評家が少なくなってきているので、荒木さんのような存在は貴重だとも思う。

  • 大貫 隆『終末論の系譜』

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初期ユダヤ教からキリスト教グノーシス、(ベンヤミンなどの)現代思想へと脈々と受け継がれる終末論や黙示思想の通史であり、著者の専門であるイエス以降の記述が厚いものとなっている。驚くべきことに、本書の主な対象は一般読書ということだが、このボリュームとクオリティであればこそ、せめて人名索引くらいは欲しかった…

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Kindleセールにて。野口雅弘先生による新訳。みずみずしい言葉で訳されているからこそ、かつてウェーバーが語った様々な問題が今も変わらず、むしろ悪化しているように感じられて暗い気分になる。

  • 多和田 葉子『献灯使』

Kindleセールにて。全米図書賞翻訳文学部門受賞作。
これがどのように翻訳されたのかに興味が出てしまう。いつか英訳も見てみたい。

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Kindleセールにて。正直に言って、最初の方で辛くなってしまったので、あまり読めていない。

  • Mary Jeanne Larrabee(ed.), An Ethic of Care: Feminist and interdisciplinary perspective

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読書会で読んでいる研究書。古いものだが、ギリガンも寄稿しているし他の論文もまあまあ。ずっとコピーで済ませていたが、中古で安いのが見つかったのでようやく購入。

  • François Recanati, Philosophie du langage (et de l'esprit)

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こちらも読書会で読んでいるもの。優しいフランス語。内容は専門外なので教えてもらいながらという感じ。

  • Rethinking Japanese Feminisms

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Kindleで無料だったので思わずポチ。

  • 『沼津兵学校記念誌』

http://jinbunpaipu.blogspot.com/2019/03/a188_14.html
偶然ネットを見かけて注文。質の高い一冊となっている。西周についても記述もあり、勉強させていただきます。

番外編

私の受験先は、博士課程に入る際にも筆記試験(英・仏or独or露・専門)が課されるところだったので、日々の研究や読書会以外にも一応院試用の対策をしました。そのときに使ったもののうち、他の人にも役たちそうなものを並べておきます。なお、これから修士の試験を受ける人は、仏独語にかんしては、昔書いたものも参考にしてくださると良いんじゃないかなと思ったりします。

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一応のおさらいとして。

  • 門脇 俊介『現代哲学』

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隠れた名著。論述試験でも参考になると思う。

  • 伊藤 和夫『英文解釈教室』

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文法事項の復習のために。例題を読んでみて、あれ?っとなったところをきちんと訳出→点検という感じ。

  • 入不二 基義編『英語で読む哲学』

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最後の仕上げに。簡単な文法事項の説明と内容紹介の解説があるので独習できる。語彙レベルもこれが基準になるし、哲学の文章でよく出る単語というのもあるので、やっておいて損はない。

とまれ、語学にかんしては、「とにかく毎日触れて、他の人の目を借りて点検」以上の王道はないだろうと思う。環境も能力も人それぞれだが、やはり読書会とかをやるのが一番効率的だと思います。