2018年1月の本

2018年の今月の本シリーズ初回です。今年もなんとかやっていきます。
私が津和野にいるのも今年の夏までの予定なので、なんとか次のステップに繋がるような仕事をしていけたらと思っています。
今月から様々な原稿に取り組みだしたため、専門的な二次文献の精査ばかりになり、普段ここで紹介しているような読書は少し停滞気味です。

「今月の本」のルール

  1. 毎月読んだ本をリストにしてブログを更新。
  2. 読んだと言っても、必ずしも全頁を読みきったことは意味しないし、再読したものもある。
  3. とはいえ、必ず入手し、本文に少しでも目を通すことが条件。
  4. コメントを書くかどうかは時間と体力次第。
  • 『しししし』vol.1 (双子のライオン堂)

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本屋発の文芸誌『しししし』/公式サイト – shishishishishishis……..
去年から「地方と文学」という関心で少しずつ趣味の読書をはじめたのだが、そのなかで宮沢賢治を再読し、その魅力にすっかりハマっていた。そんなわけで、宮沢賢治特集と聞き、大変楽しみにしていた。
「カムパネルラ」という名の響き――私はまさに賢治の魅力に固有名の独特さがあると思っている――から賢治の愉しみを語る長野まゆみさんのエッセイにはじまり、気鋭の賢治研究者である山下聖美さんによる、賢治研究の変遷と賢治のテクストがもつ「よくわからないけれど、なんだがすごくよくわかる気もする」という不思議な共鳴から「死」への洞察が光る文章、「さるのこしかけ」、「黄いろのトマト」といったコミカライズも含む充実の一冊だった。

  • チャールズ・ジャレット『知の教科書 スピノザ』石垣憲一訳

かれこれ数年続けているデカルト省察』読書会が一区切りつき、次からはスピノザ『エチカ』を読むことになっているので、その予習用。これまでスピノザの入門書は数冊読んできたが、彼の哲学にかんする解説はこれが一番すっと理解できたように思う。

かなり古いものだが、おすすめされたのでパラ見。著作権が切れているのでInternet Archiveで無料でDLできる。

千葉雅也さんの「ラディカルな有限性」とマルクス・ガブリエル「非自然主義実在論のために」のために買った。
千葉さんの論考は、様々な重なり合いや反発がひしめき合う思弁的実在論(SR)周りの議論を整理をしてくれるもの。有限性の探求という部分には氏自身の今後の哲学的戦略も垣間見れる。とりわけ、p. 104下段以降のメイヤスーとハーマンの実在論的戦略にかんする説明は、誤解も多い部分なので大変有用と思われる。また、個人的に一番興味深かったのは、日本の文脈をも引き受けながら、メイヤスーの「レトロ超越論的」と言われる次元をポストSRの論点として整理した後半部。超越論なものについての経験的発生(身体)に着目するもので、有限性ということ自体を問うという思弁的な実在論の哲学的基底を分かりやすく抉出している。この次元において、グラントのシェリング自然哲学の再解釈もうまく位置づけられるのではないか。私は、以前よりグラントが解釈するところのシェリング的「自然」にかんして、レヴィナスの元基(élément)と響き合う部分を感じている。そんな元基と主体との関係に、ある種の実在論(※とはいえ、これはインガルデンに代表される現象学的な実在論)を読み込んだことのある者としては、この辺に関心はなくはない(優先順位はそんなに高くはないけど)。ハーマンを訳しておいてなんだが、少なくとも彼のレヴィナス読解は酷いものだったし、様々な分野から微妙な扱いを受けるレヴィナスの――ゴリゴリのテクスト解釈とは別にあるであろう――新しい読み筋の開発という点では、イアン・ハミルトン・グラント、マルクス・ガブリエルらドイツ観念論畑の人々の研究進展に仄かに期待している。

  • 藤田 尚志・宮野 真生子編『家族 (愛・性・家族の哲学 第3巻)』

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本書を手に取った目的は二つで、第一に、レヴィナスの議論が援用されることも多いフェミニスト現象学が前提にすべきであろう基本概念の整理のため、第二に、地方で暮らしていくなかで、既存の多くの移住者メディアなんかとか異なる仕方で、我々なりに家族的共同体を考え直したいと思ったため。こうした背景もあって、久保田裕之さんの「共同生活体としての家族」や奥田太郎さんの「家族であるためには何が必要なのか――哲学的観点から考える――」は非常に勉強になった。

  • 『身体と親密圏の変容 (岩波講座 現代 第7巻)』

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こちらも家族論や親密圏の問題を学ぶために購入。第Ⅱ編「「家族」の終焉?」がお目当てだったが、千葉さんの「思弁的実在論と無解釈的なもの」も読みたいと思っていたところだったのでちょうど良かった。
昨今話題の実在論周りにかんしては、上記の現代思想の論文と「思弁的実在論と無解釈的なもの」を読むとだいぶすっきりするのではないだろうか。

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Weird Realismを読むために揃えてみた。
とはいえ、Weird Realismの荒い議論に早くも倦怠感を覚えつつも、ラヴクラフトの面白さをいかに語るかの知見を少しでも手に入れることが出来ればという感じ。
個人的なお気に入りは、創元推理文庫だと第3巻所収の「時間からの影」です(ハーマンはあまり評価していないけど)。
なお原文は基本的にThe H.P. Lovecraft Archiveで読むことができる。
www.hplovecraft.com


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これもラヴクラフト強化月間的なことで買った。
ラヴクラフトの新訳を手掛けた森瀬繚さんが中心か。本誌にはWeird Realismの元となった論考「現象学のホラーについて――ラヴクラフトフッサール」も訳出されている。その後本人が一面的であったと反省し、アップデートを試みたとは言え、ハーマンのラヴクラフト理解を大掴みに捉えるのには有用。
対談、創作、批評と数あれど、個人的には、大野英士さんの「クトゥルー神話、あるいは神亡き後のオリジナルなき複製増殖装置」が面白かった。
あくまでクトゥルー神話がテーマとはいえ、もう少し英米仏あたりのHPLの受容や英米文学研究者の論考が読みたかった(その点、「「克蘇魯(クトゥルー)」、中華圏にて、大いに信者を獲得中」はかなり新鮮でした)。