近況告知:「それぞれの町で」・「やっぱり知りたい!西周」・『四方対象』

多くの方々のご助力もあって、この度いくつかの仕事を公開できるようになりました。

どれも出来る限りの力を振り絞って取り組んだ(取り組んでいる)ものです。
よろしければ、ぜひ手にとって、ないし参加していただけると大変嬉しく思います。

「それぞれの町で」『POSSE』vol.36、堀之内出版

POSSE』誌上でリレー連載をさせていただけることになりました。
vol.36には執筆者(小松理虔さん、山脇耀平さん、私と同僚の瀬下翔太)が一同に会しての座談会が掲載されております。当日の司会は五十嵐泰正先生が務めてくださいました。

「地方創生」や「町おこし」ブームのなか、その流れをある面では「活用」し引き受けつつも、クリティカル(批判的・批評的)な眼を捨てることなく、未来を見据えてなにか尖ったことや革新的なことを実践するとはどういうことなのか?さまざまな限界や軋轢がありながら、なぜ地方なのか、あるいは地方でなくてはならないのか?
Uターン、Iターン、Jターンという異なる移住の仕方をしている4名が、それぞれの活動を振り返りながら地方のリアルを語っています。

4名の活動の場は、いわき、岡山、津和野と規模や風土も異なる土地であり、その内容も、芸術祭を筆頭とした企画や情報発信、デニムの販売やスタディツアー、教育型下宿と郷土史研究と多岐にわたっています。本座談会では、この多様性がまずもって若者による地方創生を語る際の重要な論点を提供しており、さらには「時間」「労働」「信頼」など、地方で生きる上で共有する部分も多くあるトピックもまた触れられています。

地方はユートピアでもディストピアでもない。けれども、大いに可能性はある。五十嵐先生の巧みな進行のお陰でこうした冷静さと情熱が垣間見れる座談会になっているかと思います。今後の連載も含め、ぜひよろしくお願いします。

ちなみにこちら、脅威の髭率100%でお送り致します。
f:id:ms141:20170822005401j:plain

☞目次の詳細や購入はこちらから。9月5日に発売予定です。
www.hanmoto.com

GACCOH全国出張版 東京編 「やっぱり知りたい!西周

この度、GACCOH「やっぱり知りたい!西周」にてナビゲーターを務めさせていただくことになりました。
これまで京都で活動されてきたGACCOHさん初の全国出張版東京編です(共催:よはく舎)。

計三回の講座で、西周の哲学・日本語論・軍事論(法思想)に焦点を当てて、じっくりとその魅力に迫りたいと思います。
初回では、「哲学」という訳語が出来上がるまでのドラマを追い、西周その人や西周の翻訳哲学なるものを紹介し、みなさんと一緒に考えてみたいと思います。翻訳とは?日本語で哲学をするとは?そんな問題に関心がある方、明治初期の思想や歴史に興味のある方に特におすすめです。

西周という人はなかなか掴みどころの難しい人物で、それは幕末から明治初期という激動の時代を生き抜いたこととおそらく無関係ではないでしょう。
彼は、
・最後の将軍徳川慶喜の側近にして日本初の憲法案の提出者
・翻訳者であり、日本哲学の父にして啓蒙思想
・漢字廃止論や日本語ローマ字化の推進者
・明治政府の官僚にして悪名高い「軍人勅諭」の起草者
・哲学を講義する私塾を開いていたほか、沼津兵学校や獨逸学協会学校の初代校長も歴任した教育者
貴族院議員を務めた政治家
というさまざまな顔をもつ人物でした。
本講座では、こうした西の生涯に見出だせる「ねじれ」にも着目しながら、彼の格闘のドラマを考えたいと思っています。

西周は「哲学」をはじめとしていまなお使われている多くの学術(哲学)用語を創った人でありながら、現在いわゆる西洋哲学を専攻する者にはあまり読まれていないように思われます。恥ずかしながら、私も津和野に来るまで彼のテクストをきちんと読んだことはありませんでした。たしかに、時代的な制約もあり、西周の哲学解釈そのもの(カント解釈やヘーゲル解釈)は今読むと不十分なところもあるでしょう。
しかし、高度に洗練され、専門ごとの細分化も進んでいる現在の研究ではときに見失われがちな、日本(語)で哲学するとはなんであるのかという問いに直面したとき、西のような明治黎明期の思想家まで遡行することは不可避であり、かつ意味ある作業ではないでしょうか。
その時代の最先端の学問と格闘し、新しい「日本語」を作り出しながら我が国の哲学研究の礎を築いた西周のテクストを読むことで、哲学を筆頭に基礎的な人文学研究の危機と言える現代日本において、いま日本語で哲学すること、日本で哲学を研究することの意義を考えるためのヒントを探ることができるのではないかと思っています。

暗い話題ばかりで先の見えない日本のアカデミズムのなか、順当なルートからは外れつつもいまだ研究を諦めずにいる私にとって、西周のテクストは、過去と未来をともに照らしてくれる豊かなヒントの土壌であり、日々の糧になっています。地方に移住して研究を仕事にするという私の実践(実験)についても、質疑などで話題が出ればお話したいと思っています。

西周にかんする講演活動としては、これまで島根県立大学京都大学でお話する機会をいただいたほか、津和野町の東京事務所(Tsuwano T-Space)にて、『「百学連環」を読む』の著者である山本貴光さんをお招きして、私が大変お世話になっている郷土史家の山岡浩二さんとともにトークイベントを計二回行ってきました(「知は巡る、知を巡る―西周とまわる学術の旅―」「知は巡る、知を巡る―西周とまわる日本語の旅―」)。山本さんと山岡さんの興味の絶えぬお話のお陰で席数は少ないながらもどちらも満員となっております。
今回は私一人で担当するため心許ない方もいらっしゃるかと思いますが、これまでの研究成果を踏まえ、奥深い西周の魅力をなるべく分かりやすく提示できるよう努めたいと思っています。

山本貴光 (id:yakumoizuru)さんがこれまでご一緒させていただいた講演イベントを振り返りつつ講座の紹介をしてくださいました。
本当にありがとうございます!
yakumoizuru.hatenadiary.jp
『「百学連環」を読む』は今回の講座の参考文献にも掲載させていただいておりますが、もとになっているウェブ連載こそ私が西周を本気で学び始めるきっかけとなったものです。本書は鮮やかな筆法によって、ある種の推理小説的な<謎解き>のおもしろさを獲得しており、西周含め哲学にこれまで触れてこなかった人にもおすすめできる一冊です。事前に予習をしたいという方はまずこの一冊を手にとっていただけると良いのではないかと思います。

GACCOH全国出張版 東京編 「やっぱり知りたい!西周
第一回 西周と「哲学」の舞台裏 :9月23日(土) 17:00-19:00
第二回 新しい「日本語」を求めて:10月22日(日) 15:00-17:00
第三回 法の徹底と実装     :11月25日(土) 19:00-21:00
場所:ブックハウスカフェ(東京 神田神保町2-5北沢ビル1F)
各回 予約1,700円 / 当日2,000円(三回通しチケット 4,500円)
共催:よはく舎
※チケットの購入はこちら
www.gaccoh.jp

[追記]
小松理虔さんや吉川浩満さんもツイートしてくださいました。ありがとうございます!

f:id:ms141:20170823222624g:plain

グレアム・ハーマン『四方対象:オブジェクト指向存在論入門』岡嶋隆佑監訳、人文書院

こちらの翻訳に参加させていただいております。私はハイデガーを中心に論じている第三章および第四章を担当しました。
オブジェクト指向存在論入門」というのは原著にはない副題ですが、ハーマンの哲学的立場のエッセンスが明快かつ大胆に展開されている本書にはぴったりだと思います。

近年主にヨーロッパ大陸において密かなブームとなっている「新しい実在論」周辺領域ですが、
カンタン・メイヤスー『[asin:4409030906:title]』やアレクサンダー・R・ギャロウェイ『[asin:4409030957:title]』、マルクス・ガブリエル『[asin:4906708544:title]』、スティーヴン シャヴィロ『[asin:4309247652:title]』や『nyx』第2号、『現代思想』の2015年1月号2015年6月号2016年1月号など少しずつ日本語で読める環境が整備されつつあります。
そのなかで、『[asin:4409030949:title]』はハーマンの基本文献としてぜひおすすめです。

さらに、このタイミングで清水高志さんの『実在への殺到』(水声文庫)が公刊されましたので、こちらと合わせて読むとより理解が深まるとともに、単なる受容を越えて「新しい実在論」とともに思考する道が開けてくるでしょう。

ハーマン自身のレヴィナス解釈――本書ではほぼ展開されてはいません――は、現在のレヴィナス研究の水準からしてみればお粗末な部分もあり(それを無批判に受け入れている論者もいて残念に思っていますが)、私自身違和感もありますが、まずは新しいものに蓋をすることなく、翻訳しその作業を通じて吟味すること。これは極東の島国で「哲学する」上で明治以来続けられていたことであり、いまなお十分に意義あることだと思っています。批判的な議論であれ、本書のチャリタブルな読解からはじまることを願います。

……正直に白状すると、今回の翻訳では監訳者の岡嶋さんに大変大きなご迷惑をお掛けしてしまいました。
翻訳プロジェクトがはじまったのは、私が津和野に移住する前後であり、心身ともにボロボロで初稿の提出は遅れ、今見直すと出来も酷いものでした。そんななか岡嶋さんは拙稿を丁寧に見直し、アドバイスも多数くださいました。
翻訳の難しさや自らの至らなさを痛感する日々でしたが、それからは訳者一同何度も何度も細かく見直し、最終的にはよりよい訳文を練り上げることが出来たと思っています。もちろんその評価は読者諸賢のみなさまに委ねるほかないのですが。

本訳書が読みやすいものとなっていれば、それはひとえに監訳者である岡嶋さんの功績であり、私の担当箇所に不備があればそれは私の責任であります。なお、監訳者による「訳者あとがき」は、ハーマンのこれまでの議論や本書全体の大きな枠組みを簡潔に整理した素晴らしい解題となっています。ご購入された方は、ぜひそこから読み始めることをおすすめします。

こちらは9月20日発売予定です。
[asin:4409030949:detail]