レヴィナスブックガイド

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エマニュエル・レヴィナス(Emmanuel Levinas: 1906-1995)*1は、リトアニアのカウナス出身のユダヤ人。フッサールハイデガーに師事し、『デカルト省察』の翻訳(1931)や『フッサール現象学の直観理論』(1930)などによってフランスに現象学を普及させた立役者の一人としても知られていますし、ブランショとの交友関係も有名と言ってよいでしょう。

我が国のレヴィナス受容にかんしていえば、合田正人氏および内田樹氏をはじめとする先達による偉大な訳業のおかげで、レヴィナスの公刊著作のほぼすべてが日本語で読めるだけでなく、多くの入門書や研究書が出版されおり、大変恵まれた環境にあると言えます。

とはいえ、レヴィナスのテクストは、「パルメニデスからハイデガー」に至るまでの西欧哲学とユダヤ思想とが複雑に交じり合っており、その特異な文体もあって、リーダブルなものとは言い難いでしょう。
そこで――つい先日友人から「レヴィナスはなにから読めばよいか?」と訊かれたこともあり――個人的におすすめのレヴィナスへの近づき方を書いてみます。

この記事の目次

レヴィナスブックガイド

■入門書

レヴィナスのみならず、ある思想家に近づく最も良い方法は本人による解説に耳を傾けてみることです。
とりわけ、非専門家に向けて己の思想を噛み砕いて解説してみせるものがあれば、それが最も信頼の置ける入門書になるはずです。

・『倫理と無限』

倫理と無限 フィリップ・ネモとの対話 (ちくま学芸文庫)

倫理と無限 フィリップ・ネモとの対話 (ちくま学芸文庫)

1981年に行われたラジオでのインタビューをまとめたものです。自らの哲学のエッセンスや背景について晩年の老レヴィナスがざっくばらんに語っています。

他にも、レヴィナスへのインタビューを含んだ入門書としては、

・サロモン・マルカ『レヴィナスを読む』

レヴィナスを読む (ポリロゴス叢書)

レヴィナスを読む (ポリロゴス叢書)

・フランソワ・ポワリエ『暴力と聖性』

暴力と聖性―レヴィナスは語る (ポリロゴス叢書)

暴力と聖性―レヴィナスは語る (ポリロゴス叢書)

があります。
さらに、リチャード・カーニーとの対談が載っている現象学のデフォルマシオン』もおすすめです。

現象学のデフォルマシオン (PQ books)

現象学のデフォルマシオン (PQ books)


日本人著者によるレヴィナスの入門書も数多く刊行されています。ここでは差し当たり以下の二冊をおすすめします。
熊野先生のものは、レヴィナスの哲学的主著を軸にした手頃で定評のあるもので、村上先生のものは、レヴィナスユダヤ的側面や芸術論、歴史哲学などこれまでの入門書ではあまり触れられることのなかった側面も扱っているのが特色です。

熊野純彦レヴィナス入門』

レヴィナス入門 (ちくま新書)

レヴィナス入門 (ちくま新書)

村上靖彦レヴィナス 壊れものとしての人間』

個人的には、入門書との良い付き合い方とは、「これ一冊!」に拘泥することなく、定評のあるものを数冊ざざっと読んで大まかなイメージを作り上げることではないかと思います(なのでここで挙げられていないものはダメか?とか訊かないでください。気になったらぜひ全部読んでください。そして良し悪しの判定は、原典を読んでみてその時に役に立ったかで下してください)。

■伝記

その人の生を知ると思想の背景やモチーフが見えてきます。もちろん、思索内容を歴史的環境によって規定できるなどと言いたいわけではありません。しかし、伝記を読むことは、疎遠だった著者に近づくための有効な手段であることに間違いありません。
レヴィナスの伝記には以下の二つがあります。そのうちの一冊がこの度邦訳されました。日本の読者には馴染みの少ないであろうユダヤ教にかんしては多めに訳注が付されているなど、配慮の行き届いた訳書になっています。
・サロモン・マルカ『評伝レヴィナス

評伝レヴィナス:生と痕跡

評伝レヴィナス:生と痕跡

・Marie-Anne Lescourret, Emmanuel Levinas, Flammarion, 1994.

レヴィナスのテクスト

「入門書はいくつか読んでみたけれど、レヴィナス本人のテクストだとなにから読めば良いか?」という質問をよく受けます。
そこで、その人の関心や目標に合わせて以下、3つのルートに分けてみました。

・お手軽ルート:これは外せない!という主著を知りたい人向け。
・ガチルート:これからレヴィナスを本格的に学んでみたい人向け(卒論以上の取り組みをしたい場合)。
現象学ルート:現象学に既に親しんでいる人がレヴィナス現象学理解を辿りたい場合に。

なお、邦訳テクストの目次やその原典にかんしては、以前このブログにてまとめたデータを配布しています。
ms141.hatenablog.com


・お手軽ルート
最小限のお金と時間で主著を辿っていきましょう。

レヴィナスの思想の独自点は、既に1930年代に見られますが、大戦後に真に発揮されると言ってよいでしょう。
そこでまずはレヴィナス・コレクション』『実存から実存者へ』(1947)を!
レヴィナス・コレクション』に収められている第Ⅰ部のテクストおよび「時間と他なるもの」(1948)と『実存から実存者へ』とを一緒に読めると理解は深まりますが、余裕がなければ、どちらか一冊で構いません。
その場合、レヴィナス節全開を味わいたい人は『実存から実存者へ』を、お得に色々読んでみたい人は『コレクション』をおすすめします。
あるいは、本屋で「時間と他なるもの」と『実存から実存者へ』を数頁ずつ読んでみて、なんとなく惹かれた方でも良いと思います。

レヴィナス・コレクション (ちくま学芸文庫―20世紀クラシックス)

レヴィナス・コレクション (ちくま学芸文庫―20世紀クラシックス)

実存から実存者へ (ちくま学芸文庫)

実存から実存者へ (ちくま学芸文庫)

レヴィナスの主著と言えば、『全体性と無限』(1961)です。

全体性と無限 (上) (岩波文庫)

全体性と無限 (上) (岩波文庫)

全体性と無限〈下〉 (岩波文庫)

全体性と無限〈下〉 (岩波文庫)

合田先生によるものと熊野先生によるものの二種類があります。
どちらの邦訳が良いかについては研究者によってもそれぞれだと思いますし、いずれも労作であり、賞賛こそすれ批難することはないため、申し上げません。
ただ、あくまで「参考」として受け取るべき訳注を鵜呑みにする危険性を回避する意図もあって、初学者にどちらを買えばよいか訊かれた場合は合田訳をおすすめしています。
ちなみに、合田訳は2006年に改訂されていますが、表紙では見分けることが出来ないので、奥付けで確認することをお忘れなく(改訂前のものでも正直問題はありません)。


第二の主著存在の彼方へ(1974)

存在の彼方ヘ (講談社学術文庫)

存在の彼方ヘ (講談社学術文庫)

ある意味レヴィナスの到達点とも言ってよいでしょう。しかしこれは奇書に当たると言っても過言ではない気がします。
レヴィナスをしっかり味わいたい人はぜひ。

……とここまで書いておいてなんですが、個人的には、あくまで「レヴィナスを楽しむ」ことが目的であるなら、先に挙げた入門書を数冊読んだら真っ先に『全体性と無限』を時間をかけて読むのが良いんじゃないかと思っています
異論もあるでしょうが、『全体性と無限』こそレヴィナスの最高傑作であり、様々な読み方、付き合い方の出来る本だと思います。
よくわからなかった飛ばしてみても良いと思います。そのうちきっとグッと来る記述に出会うはずです。
また、時間を置いて読んで見ると、以前はぼやけた呪文にしかみえなかった文章がふとこちらの身を切り裂くような鋭利なもの、あるいは極めて身近なことのように感じることもあるはずです。
こういう読み方を許容してくれる「器の大きい」テクストこそ、真に読み継がれる古典になるのだと思います。

また、ガチルートで紹介する一連のモノグラフに自分が好きな思想家や作家の名前があれば、それを読むのもおすすめです。


・ガチルート
当然ベストは原典で読むことですが、以下リンクはすべて邦訳で示します。
それぞれの原典にかんしては、先に挙げたブログ記事の「私家版 E.レヴィナス全邦訳書籍目次」を参照してください。
※なお、以下でレヴィナスのすべてのテクストを紹介しているわけではありません。あしからず。

・『レヴィナス著作集 1』

レヴィナス著作集 1: 捕囚手帳ほか未刊著作

レヴィナス著作集 1: 捕囚手帳ほか未刊著作

近年公刊された草稿類の第一弾です。原書では現在三巻まで出ており、邦訳の予定もあるとのこと。
とりわけ第二巻はヴァール主催の哲学コレージュでの講演原稿なので、レヴィナスが自らの思想を練り上げる現場をうかがい知ることが出来ます。
ちなみに後で紹介する『現代思想』のレヴィナス特集号には、第二巻冒頭に位置する1948年講演「発話と沈黙」の訳と解説が載っています。

[追記]
第二巻の邦訳が出版されました。

レヴィナス著作集 2: 哲学コレージュ講演集

レヴィナス著作集 2: 哲学コレージュ講演集


・『フッサール現象学の直観理論』

フッサール現象学の直観理論 (叢書・ウニベルシタス)

フッサール現象学の直観理論 (叢書・ウニベルシタス)

1930年に公刊されたレヴィナスによる学位論文です。それなりに硬派な現象学論考なので、現象学を学んでいない場合は後回しにしても可ですが、レヴィナスを読む以上現象学からは逃げられません。
幸い日本には素晴らしい現象学の入門書や研究書がたくさんありますので、それらを参照しつつ、フッサール『論理学研究』や『イデーンI』、ハイデガー存在と時間』も読んでいくことが望ましいと思います。

定評のある入門書を挙げると、
フッサール
ダン・ザハヴィ『フッサール現象学

フッサールの現象学

フッサールの現象学

田口茂『現象学という思考』クラウス・ヘルト『20世紀の扉を開いた哲学』
斎藤慶典『フッサール 起源への哲学』
谷徹『これが現象学だ』
山口一郎『現象学ことはじめ』


ハイデガー
ハイデガー読本』

ハイデガー読本

ハイデガー読本

高田珠樹ハイデガー 存在の歴史』木田元ハイデガーの思想』
渡邊二郎ほか『ハイデガー存在と時間」入門』
細川亮一『ハイデガー入門』
ギュンター・フィガール『ハイデガー入門』
ティモシー・クラーク『マルティン・ハイデガー
門脇俊介『『存在と時間』の哲学〈1〉』

などがあります。
なお、入門書ではありませんが、ハイデガーにかんしては池田喬『ハイデガー存在と行為』を――やや高価ですが――強くおすすめします。

ハイデガー存在と行為―『存在と時間』の解釈と展開

ハイデガー存在と行為―『存在と時間』の解釈と展開


・『レヴィナス・コレクション』

レヴィナス・コレクション (ちくま学芸文庫―20世紀クラシックス)

レヴィナス・コレクション (ちくま学芸文庫―20世紀クラシックス)

合田先生による編訳書です。まずはこの中から30年代に書かれた諸論考を読んでいきましょう。「フライブルクフッサール現象学」、「ヒトラー主義に関する若干の考察」、「逃走論」などがそれです。

なお、編訳書には『超越・外傷・神曲』もあります。こちらはレヴィナス屋になる予定の人は中古で安く見つけたら買っておきましょう。40年代のハイデガー受容を考える上で結構重要な「時間的なもののなかの存在論」やレヴィナスにおけるユダヤ性の問題を考察する際には見落とせない「ユダヤ的存在」の訳はこちらにしか入っていませんし、『コレクション』では省かれた訳注や解説もためになります。


そのあとは、大戦後のレヴィナスの著作に挑んでいきましょう。
代表作は、
・『実存から実存者へ』

実存から実存者へ (ちくま学芸文庫)

実存から実存者へ (ちくま学芸文庫)

です。
大戦後1947年に出版されたこの著作は、レヴィナス独自の思想がまとまった形で産声をあげたものと言っても過言ではなく、大変魅力的ではあるのですが、かなり荒削りで構成もよく練られたものとは言い難い代物です。
そこで、『実存から実存者へ』と平行して、ないしその前に『コレクション』所収の「時間と他なるもの」を読むことをおすすめします。
「時間と他なるもの」は同時期の講演をもとにしたものであるため、思想内容は概ね同様で、テーマごとに区切られているので、まだ読みやすいと思います。
また、同時期のテクストとしては、これまた『コレクション』に入っている「現実とその影」(1948)――サルトル主催のレ・タン・モデルヌ誌に載せられたものです――は、彼の芸術論と言っても良いもので、ぜひとも抑えておく必要があるでしょう。


この後レヴィナスの思想は円熟期を迎えることになります。

余裕があれば、『レヴィナス・コレクション』第II部の論考を読んでおくとなお良いと思います。
とりわけ「存在論は根源的か」(1952)はレヴィナスによるハイデガーからの離脱を決定づける重要なテクストです。

また、現象学に関心がある人は、
・『実存の発見』

実存の発見―フッサールとハイデッガーと共に (叢書・ウニベルシタス)

実存の発見―フッサールとハイデッガーと共に (叢書・ウニベルシタス)

に収められている諸論考を読むとレヴィナスがどのようにフッサールハイデガーを受容したかがよくわかります。
1959年に相次いで発表された3本のフッサール論は、『全体性と無限』における現象学解釈の基盤となっています。

さて、いよいよ主著『全体性と無限』(1961)です。
・『全体性と無限』

全体性と無限 (上) (岩波文庫)

全体性と無限 (上) (岩波文庫)

全体性と無限〈下〉 (岩波文庫)

全体性と無限〈下〉 (岩波文庫)


第二の主著と言われる『存在するとは別の仕方で、あるいは存在することの彼方へ』(1974)(邦訳では、『存在の彼方へ』と略されています)公刊の前後で、レヴィナスは多くの論考を発表しています。

存在の彼方ヘ (講談社学術文庫)

存在の彼方ヘ (講談社学術文庫)

存在の彼方へ』以前の重要なテクストと言えば、『実存の発見』第二版に所収された「他者の痕跡」と「謎と現象」、そして『他者のユマニスム』があります。

他者のユマニスム (叢書 言語の政治)

他者のユマニスム (叢書 言語の政治)

存在の彼方へ』以後では、1975-6年に行われたソルボンヌ大学教授としての最後の講義録である『神・死・時間』などが挙げられます。この講義録はヘーゲルやカントへの(再)注目など論点が盛り沢山です。

神・死・時間 (叢書・ウニベルシタス)

神・死・時間 (叢書・ウニベルシタス)

時折、晩年の『観念に到来する神について』が第三の主著と言われることもあります。

観念に到来する神について (ポリロゴス叢書)

観念に到来する神について (ポリロゴス叢書)

その他の重要なテクストは、『われわれのあいだで』『歴史の不測』などの論文集に収められているので、ちまちま読んでいくと良いでしょう。

歴史の不測―付論 自由と命令・超越と高さ (叢書・ウニベルシタス)

歴史の不測―付論 自由と命令・超越と高さ (叢書・ウニベルシタス)


加えて、一連のモノグラフも読み物としても大変おもしろいのでおすすめです。
モーリス・ブランショや、論集である『固有名』『外の主体』に所収されているものがそれです。関心に応じて読むと良いかと。

モーリス・ブランショ

モーリス・ブランショ

固有名

固有名

外の主体

外の主体


以上、レヴィナスの哲学的著作に絞って案内してきましたが、忘れてはいけないのが一連のユダヤ系著作です。
ただ、レヴィナスの思想のなかにどの程度ユダヤ性を読み込むかにかんしては研究者によっても異なります。
また、あくまでレヴィナスが哲学的著作とユダヤ的著作とを意識的に分けて異なる出版社から出していることもよく指摘されるので、過度に彼の哲学内容をユダヤに回収するような判断は控えた方が良いでしょう。とはいえ、逆にレヴィナスからユダヤ性を完全に脱色させてしまうのもまた無謀なことのように思われます。

レヴィナスによるユダヤ的な著作は、大きく分けて二種類あります。ひとつはユダヤ教にまつわる様々なトピックについて広く書かれたものであり、いまひとつがタルムード講話です。
それぞれの代表的な仕事を挙げると、前者では『困難な自由』、後者では『タルムード四講話』『〃新五講話』になるでしょう。

困難な自由 (叢書・ウニベルシタス)

困難な自由 (叢書・ウニベルシタス)

タルムード四講話 新装版

タルムード四講話 新装版

タルムード新五講話 新装版: 神聖から聖潔へ

タルムード新五講話 新装版: 神聖から聖潔へ

ただ、私はあくまで哲学畑の人間でして、特に後者のタルムード関連についてはほぼ素人です。
つまり人様に教えるなんて出来ないのですが、一応レヴィナスにおけるユダヤ的なものをめぐって勉強する上で役に立った本や面白かった本を紹介しておきます。


まずはユダヤ教にかんする勉強をしなくては、レヴィナスユダヤ性を論じることは出来ません。

聖書時代史―旧約篇 (岩波現代文庫)

聖書時代史―旧約篇 (岩波現代文庫)

図説 ユダヤ教の歴史 (ふくろうの本)

図説 ユダヤ教の歴史 (ふくろうの本)

ユダヤ教の歴史 (宗教の世界史)

ユダヤ教の歴史 (宗教の世界史)

ユダヤ教―過去と未来

ユダヤ教―過去と未来

岩波講座 東洋思想〈1〉ユダヤ思想 1

岩波講座 東洋思想〈1〉ユダヤ思想 1

岩波講座 東洋思想〈2〉ユダヤ思想 2

岩波講座 東洋思想〈2〉ユダヤ思想 2

ユダヤ教の精神構造

ユダヤ教の精神構造

ユダヤとイスラエルのあいだ―民族/国民のアポリア

ユダヤとイスラエルのあいだ―民族/国民のアポリア

アウシュヴィッツの残りのもの―アルシーヴと証人

アウシュヴィッツの残りのもの―アルシーヴと証人

ヘブライ的脱在論―アウシュヴィッツから他者との共生へ

ヘブライ的脱在論―アウシュヴィッツから他者との共生へ


とりわけレヴィナスも深く関係する「ユダヤと哲学」という問題をめぐっては、以下のものがおすすめです。

20世紀ユダヤ思想家 ――来るべきものの証人たち(1)

20世紀ユダヤ思想家 ――来るべきものの証人たち(1)

20世紀ユダヤ思想家 2――来るべきものの証人たち

20世紀ユダヤ思想家 2――来るべきものの証人たち

20世紀ユダヤ思想家 3―― 来るべきものの証人たち

20世紀ユダヤ思想家 3―― 来るべきものの証人たち

ユダヤ哲学―聖書時代からフランツ・ローゼンツヴァイクに至る

ユダヤ哲学―聖書時代からフランツ・ローゼンツヴァイクに至る

ドイツ・ユダヤ思想の光芒 (岩波現代全書)

ドイツ・ユダヤ思想の光芒 (岩波現代全書)

対話の哲学 ドイツ・ユダヤ思想の隠れた系譜 (講談社選書メチエ)

対話の哲学 ドイツ・ユダヤ思想の隠れた系譜 (講談社選書メチエ)

ブーレッツによる三巻本は持っているとかなり役立ちます。
グットマンのものは今や古典的な研究で、レヴィナス本人もおすすめの一冊。
佐藤貴史さんによる極めて内容の濃い概説書は、今後この分野を勉強する際の必読文献となると思います。
ローゼンツヴァイクの訳者である村岡先生による入門書も、ドイツユダヤ思想を優しく解説しており、特にフンボルトについての章は貴重かと。パトナムによるのものは英米圏ではよく読まれており、これもおすすめです。

もっと学びたい人にはこちらを。レヴィナスに関係する範囲では、ブーバー、ローゼンツヴァイクショーレムの三人は外せません。

救済の星

救済の星

フランツ・ローゼンツヴァイク―“新しい思考”の誕生

フランツ・ローゼンツヴァイク―“新しい思考”の誕生

歴史の天使―ローゼンツヴァイク、ベンヤミン、ショーレム (叢書・ウニベルシタス)

歴史の天使―ローゼンツヴァイク、ベンヤミン、ショーレム (叢書・ウニベルシタス)

我と汝・対話 (岩波文庫 青 655-1)

我と汝・対話 (岩波文庫 青 655-1)

救済の解釈学―ベンヤミン、ショーレム、レヴィナス (叢書・ウニベルシタス)

救済の解釈学―ベンヤミン、ショーレム、レヴィナス (叢書・ウニベルシタス)

ブーバーとショーレム ユダヤの思想とその運命

ブーバーとショーレム ユダヤの思想とその運命

ユダヤ神秘主義―その主潮流 (叢書・ウニベルシタス)

ユダヤ神秘主義―その主潮流 (叢書・ウニベルシタス)

カバラーと反歴史―評伝ゲルショム・ショーレム

カバラーと反歴史―評伝ゲルショム・ショーレム


個人的な印象で申し訳ありませんが、この辺まで読むと、『困難な自由』『諸国民の時に』あたりのテクストが少しは身近になる気がします。

諸国民の時に (叢書・ウニベルシタス)

諸国民の時に (叢書・ウニベルシタス)


タルムード読解については、コーヘンの入門書がリーダブルで参考になりますが、ヘブライ語聖書や様々な慣例などを勉強しないと難しいところがあると思います。

タルムード入門〈1〉

タルムード入門〈1〉


とはいえ、レヴィナスのタルムード釈義は、意外とユダヤ教徒以外にも通じる話もあったりするので、あまりこだわらずチャレンジするのも一興でしょう。


現象学ルート
重複が多くなりますが、以下では現象学に関心がある人ないし既に学んでいる人で、レヴィナス現象学理解を知りたい人向けに簡単にではありますが、時系列順にテクストを紹介していきます。

(1)まずは、『直観理論』でしょう。
フッサールの核心をある仕方で抉り出しているものと今なお評価が高いものですが、そのフッサール理解にある部分ではハイデガーの思想が入り込んでいると指摘されることもあります。

(2)その後は、『実存の発見』邦訳の第一部の諸論考や「フライブルクフッサール現象学」(1931)(『コレクション』など)へ。
レヴィナスがどうフッサールハイデガーに出会い、彼らの哲学を吸収していったかを知ることが出来ます。

(3)ハイデガーに関心がある場合、「時間的なもののなかの存在論」(1940)(『超越・外傷・神曲』)と「存在論は根源的か」(『コレクション』、『われわれのあいだで』など)を!
余裕があれば、「自我と全体性」(1954)(〃)も。

(4)再び『実存の発見』に戻り、第二部の諸論文を。これらは必読です。
これら(3)(4)は、いかなる仕方でレヴィナスが二人の偉大なHから離反していったかを探る手掛かりになります。

(5)『全体性と無限』へ。
という感じでしょうか。

■おすすめの研究書

世界的にもここ10年ほどでレヴィナス研究も一気に発展したと思います。
また我が国のレヴィナス研究も総じてハイレベルであり、貴重な研究書が数多く出版されています。
そこで一部ではありますが、おすすめの研究書を挙げておきます(なお未邦訳の海外文献は割愛しました)。

まず第一に合田先生によるお仕事が挙げられるべきでしょう。
1988年に出版された『レヴィナスの思想』は本邦初の本格的なレヴィナス研究書であり、今なおその覇気迫る文体と怒涛の情報量には圧倒されます。

レヴィナスの思想―希望の揺籃

レヴィナスの思想―希望の揺籃

ちなみに『レヴィナスの思想』を改訂したものが文庫になっております。
レヴィナス―存在の革命へ向けて (ちくま学芸文庫)

レヴィナス―存在の革命へ向けて (ちくま学芸文庫)

もう一方で、『レヴィナスを読む』もちくま学芸文庫になっています。

近年のレヴィナス研究を知るのに役立つのは、『現代思想』2012年3月臨時増刊号の特集号と2011年に明治大学で行われた『全体性と無限』公刊50周年を記念したシンポジウムの論文集『顔とその彼方』です。
とくに『現代思想』の特集号には、巻末に研究・文献ガイドがあり、現在のレヴィナス研究を一望出来ます。

現代思想2012年3月臨時増刊号 総特集=レヴィナス

現代思想2012年3月臨時増刊号 総特集=レヴィナス

さらに、国内外で活躍している中堅から若手研究者の単著はどれも世界最高水準であると思います。
・伊原木大祐『レヴィナス 犠牲の身体』

レヴィナス 犠牲の身体

レヴィナス 犠牲の身体

・馬場智一『倫理の他者』
倫理の他者: レヴィナスにおける異教概念

倫理の他者: レヴィナスにおける異教概念

・藤岡俊博『レヴィナスと「場所」の倫理』
レヴィナスと「場所」の倫理

レヴィナスと「場所」の倫理

・小手川正二郎『甦るレヴィナス
甦るレヴィナス―『全体性と無限』読解

甦るレヴィナス―『全体性と無限』読解

これらは今やレヴィナスを語る上でまず読んでおかなくてはならないものになっています。

他にも、レヴィナスにかんする研究書は多くありますが、ここでは偏りを承知の上で以下のものを挙げておきます(一部レヴィナスに触れているものも含む)。関心に応じて手にとってみてください。

思考の臨界―超越論的現象学の徹底

思考の臨界―超越論的現象学の徹底

力と他者―レヴィナスに

力と他者―レヴィナスに

レヴィナスと現れないものの現象学―フッサール・ハイデガー・デリダと共に反して

レヴィナスと現れないものの現象学―フッサール・ハイデガー・デリダと共に反して

倫理の復権―ロールズ・ソクラテス・レヴィナス

倫理の復権―ロールズ・ソクラテス・レヴィナス

レヴィナスとブランショ―「他者」を揺るがす中性的なもの

レヴィナスとブランショ―「他者」を揺るがす中性的なもの

差異と隔たり―他なるものへの倫理―

差異と隔たり―他なるものへの倫理―

レヴィナスの倫理―「顔」と形而上学のはざまで

レヴィナスの倫理―「顔」と形而上学のはざまで

不死のワンダーランド

不死のワンダーランド

メルロ=ポンティとレヴィナス―他者への覚醒

メルロ=ポンティとレヴィナス―他者への覚醒


また、海外文献の邦訳も盛んです。
・ディディエ・フランク『現象学を超えて』

現象学を超えて

現象学を超えて

は基礎文献と言って良いでしょうし、去年邦訳が出版された『他者のための一者』はレヴィナスの『存在の彼方へ』を読む上では必ず踏まえられるべき最重要文献です。
他者のための一者: レヴィナスと意義 (叢書・ウニベルシタス)

他者のための一者: レヴィナスと意義 (叢書・ウニベルシタス)

また、『存在の彼方へ』の副読本としてはリクール『別様に』も日本語で読むことが出来ます。

他にも、フランスにおけるレヴィナス研究の前線にいるセバー氏の著作やジャン=フランソワ・レイの『レヴィナスと政治哲学』も外せません。

レヴィナスと政治哲学―人間の尺度 (叢書・ウニベルシタス)

レヴィナスと政治哲学―人間の尺度 (叢書・ウニベルシタス)


■その他 さらにレヴィナスに近づくために…

最後に、レヴィナスを読む上で知っているとよりレヴィナスを理解出来るようになるもの、あるいはレヴィナスと同時に読むと面白いであろういくつかのテクストを(ごく一部ですが)挙げておきます。既に挙げたフッサールハイデガー、そして同時代人であり、ともに現象学の薫陶を受けたサルトルメルロ=ポンティは言わずもがななので割愛しました。

プラトン

国家〈上〉 (岩波文庫)

国家〈上〉 (岩波文庫)

国家〈下〉 (岩波文庫 青 601-8)

国家〈下〉 (岩波文庫 青 601-8)

パイドロス (岩波文庫)

パイドロス (岩波文庫)

意外かもしれませんが、レヴィナスのテクストにはプラトンからの引用が多くあります。

デカルト

方法叙説;省察 (イデー選書)

方法叙説;省察 (イデー選書)

「無限の観念」などレヴィナスデカルトから多くの哲学的概念や論述を学んでいます。

スピノザ

神学・政治論(上) (光文社古典新訳文庫)

神学・政治論(上) (光文社古典新訳文庫)

神学・政治論(下) (光文社古典新訳文庫)

神学・政治論(下) (光文社古典新訳文庫)

ユダヤの聖書解釈 スピノザと歴史批判の転回

ユダヤの聖書解釈 スピノザと歴史批判の転回

レヴィナスにとってスピノザはある種の棘であった。気になる人は『顔とその彼方』所収の合田先生の論考などを参照してみてください。

ヘーゲル

精神現象学

精神現象学

ヘーゲル読解入門―『精神現象学』を読む

ヘーゲル読解入門―『精神現象学』を読む

ヘーゲルと国家

ヘーゲルと国家

ある面では、ヘーゲルこそレヴィナスの最大の敵だったと言えるかもしれません。ローゼンツヴァイクとの関連でも触れておきたい。

デリダ

プシュケー 他なるものの発明(I)

プシュケー 他なるものの発明(I)

アデュー―エマニュエル・レヴィナスへ

アデュー―エマニュエル・レヴィナスへ

動物を追う、ゆえに私は〈動物で〉ある (単行本)

動物を追う、ゆえに私は〈動物で〉ある (単行本)

デリダこそ言わずもがなだろ!と言われそうですが、一応。
ブランショと同様、デリダレヴィナスは常に相手の仕事に関心を持ち続け、互いに尊敬し合っていました。

ブランショ

文学空間

文学空間

明かしえぬ共同体 (ちくま学芸文庫)

明かしえぬ共同体 (ちくま学芸文庫)

アミナダブ

アミナダブ

文学のミニマル・イメージ モーリス・ブランショ論 (流動する人文学)

文学のミニマル・イメージ モーリス・ブランショ論 (流動する人文学)

朋友ブランショ。ちなみにアミナダブはレヴィナスの弟の名前でもあります。

・ジャンケレヴィッチ

最初と最後のページ

最初と最後のページ

ジャンケレヴィッチ―境界のラプソディー

ジャンケレヴィッチ―境界のラプソディー

彼との交友もまたレヴィナスを語る上では外せません。また、レヴィナスはジャンケレヴィッチのある種の師でもあったベルクソンに生涯敬意を払っていました。

アーレント

活動的生

活動的生

全体主義の起原 1 ――反ユダヤ主義

全体主義の起原 1 ――反ユダヤ主義

同じ師をもち、同じユダヤの出自であるアーレントレヴィナスの近さと遠さは常に問題になっています。

・ヨナス

グノーシスの宗教―異邦の神の福音とキリスト教の端緒

グノーシスの宗教―異邦の神の福音とキリスト教の端緒

責任という原理―科学技術文明のための倫理学の試み

責任という原理―科学技術文明のための倫理学の試み

ヨナスはアーレントの親友でもありました。レヴィナスとヨナスは両者ともに確実に互いのテクストを読んでいるが、二人がともに語られることは少ない。ちなみにヨナスによるレヴィナスへの数少ない言及は『エスプリ』での« De la gnose au "Principe responsabilité" »という対談。こちらからDL可。


バタイユ

戦争・政治・実存 社会学論集1 (ジョルジュ・バタイユ著作集)

戦争・政治・実存 社会学論集1 (ジョルジュ・バタイユ著作集)

呪われた部分 有用性の限界 (ちくま学芸文庫)

呪われた部分 有用性の限界 (ちくま学芸文庫)

バタイユレヴィナスのかなり早い時期から読者の一人でもあります。

ボーヴォワール

決定版 第二の性〈1〉事実と神話 (新潮文庫)

決定版 第二の性〈1〉事実と神話 (新潮文庫)

この本で彼女はレヴィナス「時間と他なるもの」の記述をいち早く批判しています。こうしたフェミニズム側からの批判はさらにイリガライらに引き継がれます。
性的差異のエチカ

性的差異のエチカ

・レヴィ=ブリュール

未開社会の思惟 上 (岩波文庫 白 213-1)

未開社会の思惟 上 (岩波文庫 白 213-1)

未開社会の思惟 下 (岩波文庫 白 213-2)

未開社会の思惟 下 (岩波文庫 白 213-2)

レヴィナスの鍵語の一つ「融即(participation)」は彼由来のことばです。

レーヴィット

共同存在の現象学 (岩波文庫)

共同存在の現象学 (岩波文庫)

ハイデガーの早い時期の弟子。ハイデガーの哲学のうちに他者性の問題を見出す点では、レヴィナスとも響きあうところがあります。
またフォイエルバッハのテーゼを継承した「我-きみ」論は、ブーバーの問題圏にも繋がります。
将来の哲学の根本命題―他二篇 (岩波文庫 青 633-3)

将来の哲学の根本命題―他二篇 (岩波文庫 青 633-3)

・ヴァール

具体的なものへ―二十世紀哲学史試論 (シリーズ・古典転生)

具体的なものへ―二十世紀哲学史試論 (シリーズ・古典転生)

フランス哲学小史 (1974年)

フランス哲学小史 (1974年)

ヴァールこそレヴィナスの発見者であると言っても良いでしょう。レヴィナスへのヴァールの影響は計り知れません(デカルト論やキルケゴール読解, etc. )。
興味のある方は、先に挙げたレヴィナスの伝記や合田『思想史の名脇役たち』のヴァールの章を。なおこの『思想史の名脇役たち』で取り上げられている、ミンコウスキー、マルセル、ブランシュヴィックもそれぞれレヴィナスと深いかかわりをもっています。


レヴィナスが度々言及する文学者たち

罪と罰〈上〉 (新潮文庫)

罪と罰〈上〉 (新潮文庫)

戦争と平和〈1〉 (新潮文庫)

戦争と平和〈1〉 (新潮文庫)

人生と運命 1

人生と運命 1

はつ恋 (新潮文庫)

はつ恋 (新潮文庫)

カフカ短篇集 (岩波文庫)

カフカ短篇集 (岩波文庫)

ハムレット (新潮文庫)

ハムレット (新潮文庫)


・その他

ニーチェ全集〈4〉反時代的考察 (ちくま学芸文庫)

ニーチェ全集〈4〉反時代的考察 (ちくま学芸文庫)

[新訳・評注]歴史の概念について

[新訳・評注]歴史の概念について

不安の概念 (岩波文庫)

不安の概念 (岩波文庫)

正義への責任

正義への責任

語りかける身体―看護ケアの現象学

語りかける身体―看護ケアの現象学

共生の作法―会話としての正義 (現代自由学芸叢書)

共生の作法―会話としての正義 (現代自由学芸叢書)

nyx ニュクス

nyx ニュクス

ローマ書講解〈上〉 (平凡社ライブラリー)

ローマ書講解〈上〉 (平凡社ライブラリー)

ローマ書講解 (下) (平凡社ライブラリー (401))

ローマ書講解 (下) (平凡社ライブラリー (401))


少々修正・文献追加(2016/06/21)。

*1:1905年生まれと表記されることもあるが、それはユリウス暦によるもの。