私家版 ユダヤ教・思想ブックガイド

 先日菅野賢治さんの『フランス・ユダヤの歴史 上下』(慶應義塾大学出版会)を読み、その圧倒的なお仕事に衝撃を受けた。こうした本が日本語で読めることはほぼ奇跡と言ってもよいのではないかという思いを抱いた次第。もちろん、日本では菅野さんをはじめ、碩学による良質なユダヤ関連書籍が数多く存在する。しかしながら、アマゾンで「ユダヤ(教)」と入力すると、怪しげな本ばかりが表示されてしまうという悲しい現状があり、さらには普段接している中で、学歴もそれなりに高く、一般的に賢いと言われるような人が日ユ同祖論とかユダヤ陰謀論を真顔で話してくることも残念ながら稀ではない。

こうしたなか、ふとユダヤ教ないしユダヤ思想にかんする良質なブックガイドはどこかに出回っていないだろうか?と思い、探したがあまり出回っていないらしい*1。そこで、これまで読んできたもののうち、日本語で読めるものに絞っておすすめをまとめてみることにした。

とはいえ、ユダヤ教ユダヤ思想の専門家というわけではないのでお手柔らかに。私の関心はあくまでレヴィナスなので、分野的に偏っているところもあるだろう。「これ入れてないとかありえんだろ!」というものがあれば、ぜひご教示いただけると幸いです。

※隙を見て更新予定。
ver.2: 2017/02/07
※あまりに量が多くなるのを避けるため、一次文献は必要最低限にしました。概説書の書誌情報などから辿っていけるでしょう。

*1:他にwebで気軽に見ることのできるものとしては、鶴見太郎氏のwebサイトがあり、有用。また、数年前私が書いた近刊本レビューが先日web公開されました。 http://rhetorica.jp/review/ishii01

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【追記あり】今年の20冊&買って使って良かったもの/積み残しの10冊

今年は4月から一人暮らしをはじめたこともあり、色々購入したりもらったりしたのでそのまとめ。

今年の20冊+1

あくまで今年読んでよかった本(今年刊行されたものとは限らないし、再読したものも部分的に読んだものも含む)から選びました。
修論関連の二次文献は誰得なので除いたため、実質的には今年の4月以降読んだものになります。

  • アントワーヌ・ベルマン『翻訳の倫理学―彼方のものを迎える文字』藤田省一訳、晃洋書房、2014年

  • 松浦寿輝『明治の表象空間』新潮社、2014年

[asin:4588130218:detail]

  • ヒューバート・ドレイファス+チャールズ・テイラー『実在論を立て直す』村田純一監訳、法政大学出版局、2016年

[asin:4480068899:detail]

  • 多田一臣『万葉語誌』筑摩選書、2014年

  • 森永豊・細川貂々『てんてん哲学に出会う―怒りっぽいわたし、どうしたらいい?』中野商店、2016年

(追記)大事なものを一つ忘れてました…

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新大学生に送ったブックリスト

 現在私は島根のとある街で塾講師をしながら糊口をしのいでいるのですが、その生徒の一人が関西の名門私大の歴史学科にAO試験で見事合格しました。
卒業まで時間のある生徒氏からおすすめの本を訊かれたので、以下のブックリスト作って渡したところ、結構喜んでくれたので今後も高3生には一人ひとりブックリストを押し付けてみようかなあと思っています。
以下その転載です。その生徒の興味関心に合わせたものですが、人文系新入生にはある程度通用するものになっているんじゃないかと思っています。

追記
先を越されてしまいましたが、その生徒氏には同僚の id:seshiapple
http://seshiapple.hatenablog.com/entry/2016/11/17/130705を加えて送りました。一応ざっとお互い確認して重複はなくすなどしました。

※なおその生徒宛へのメッセージなどは省いております。
※まずはじめの一冊に読んでほしいものや個人的におすすめのものはアマゾンのリンクを貼ってみました。

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研究中途報告

TwitterFacebookにて報告致しましたが、4月より島根県の津和野というところで働くことになりました。
現時点の予定では、一年間現地で働き、来年度はまた研究の方に戻ってきたいと思っていますが、正直なところどうなるかわかりません。

ということで、一度これまでの私の研究を――大したものもありませんが――まとめてみたいと思います。
ーーー
[追記]:2016/06/01
記事作成以降発表したものも追加で書いていくことにします。
[追記2]:2016/12/22
研究業績などは以下の個人ページにまとめることにしました。
今後はこちらを御覧ください。
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【学位論文】


【投稿論文】

  • 「瞬間・メシア・他性 ――『実存から実存者へ』の時間論分析――」、『哲学の探求』、哲学若手研究者フォーラム、第 42 号、pp. 315-334、2015 年。[ PDF ]


【口頭発表】

  • 「瞬間・メシア・他性 ――『実存から実存者へ』の時間論分析――」、哲学若手研究者フォーラム、早稲田奉仕園、2014年7月19日。
  • 「なぜ共同存在は他者を起点にしなければならないのか?――『全体性と無限』における社会性と言語――」、哲学/倫理学セミナー(第一〇八回、【特別企画】シンポジウム:共同存在の行方~ハイデガーとその後~)、お茶の水女子大学、2015年7月25日。
  • レヴィナスによる被投性解釈の変遷とその意義]」、日仏哲学会(2016年春季研究会)、京都大学、2016年3月19日。

iPad mini×i文庫HD×物書堂の辞書で研究環境を整えてみた(追記あり)

買ってしまったiPad mini

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とはいっても、最近発売したRetina版ではなく、2012年発売のMD529J/Aです。容量は32GB。
中古で27,000円ほどで購入。
以前kindlePWを買った時、「これさえあれば、iPadなんて必要ないんや!」などと強がってみましたが、やはりアプリの充実や操作性を考えると段違いです。

◯選んだポイント
・なぜ今更先代のminiか?

iPad airという選択肢もあったのですが、やっぱり高いのと、片手で読め、通学時間でも活用しやすいminiにしました。
また用途は基本PDFリーダー(文献読み)です。それゆえ別に画質に固執する必要はないと思い、非Retinaにしました。
音楽や動画を入れたりはしないので、16GBでもおそらくは問題ないのでしょうが、ビクビクしながら使うよりはある程度余裕をもって使いたかったのと、偶然安い中古を見つけたので32GBにしました。
結果として、とても満足しています。

◯使用法
以下、iPad miniを文献読みツールとして使うときに便利なアプリとともに紹介したいと思います。(先輩の受け売り)

まずiPadのブックリーダーアプリとしては、i文庫HDがおすすめです。

i文庫HD

i文庫HD

  • DWANGO Co., Ltd.
  • ブック
  • ¥860
長所として、①DropboxやEvernotなどとの連携機能あり、②しおりをつかってハイライト&メモを埋め込むことも可能(あるいはそのメモをエバノに送信も可能)、③検索機能あり、④「辞典Appで検索」機能に対応が挙げられます。
②〜④はPDFの場合、文字認識がされていることが前提ではあります。

とくに文献読みツールとして使うとき、④「辞典Appで検索」機能に対応していることが役立ちます。(なお、①〜③については、「iPad mini i文庫HD」とかでググれば素晴らしい紹介記事があるのでそちらを参照してください)
「辞典Appで検索」機能とは、他のアプリケーションから呼び出して辞書検索を行うものです。
辞書アプリを持っていれば、外国語文献を読む際、調べたい単語をワンタッチで引くことができます。

そこでi文庫HDの「辞典Appで検索」機能を活用するためにおすすめなのが物書堂の辞典アプリです。

設定は簡単で、i文庫HDから設定→アプリケーション連携を選び、持っている辞書のURLを物書堂のサイトi文庫HDのアプリケーション連携のページを参照して打ち込むだけです。

◯参考までに使ってみた例

これは『レヴィナス全集』第一巻所収の「捕囚手帳」の最初の草稿頁です。(自分で自炊したもの、OCR処理済み)
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まず調べたい単語を選択し、[その他]を選ぶと、
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このように、連携した辞書アプリが選択できます。
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ロベールへ。テクストに戻るのもワンタッチで出来ます。
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私はウィズダム英和とロベール仏和のアプリを持っているので、英語と仏語の文献であれば、上記のようにiPad miniだけでストレスなく読み進めることができます。しかも全てオフラインで。

ウィズダム英和・和英辞典 2

ウィズダム英和・和英辞典 2

  • 物書堂
  • 辞書/辞典/その他
  • ¥2,940
小学館 ロベール 仏和大辞典

小学館 ロベール 仏和大辞典

  • 物書堂
  • 辞書/辞典/その他
  • ¥5,860

あとは小学館の『独和大辞典』アプリが出ると最高にうれしいのですが、どうなるやら。期待したいです。

(追記)
物書堂さんのtwitterアカウントより、『独和大辞典』のアプリが来月リリースするとのお知らせをいただきました。
これは買いでしょう!
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(追記の追記)
物書堂より『独和大辞典』のアプリがリリースされました。
https://itunes.apple.com/jp/app/xiao-xue-guan-du-he-da-ci/id806184320?mt=8&uo=4&at=10l8JW&ct=hatenablog
2月末まで4,000円でのセール販売とのこと。
もちろん私も即買いしました。これで英仏独の文献が楽々読めるとともに、電子辞書を持ち歩く必要さえ薄れてきました。

無料OCR化サイトi2OCRを使ってみる。

使ってみたサイトはi2OCR
画像ファイルを無料でOCR化してくれるというサイトで、登録なしで簡単に利用できる。
日本語を含め60以上の言語に対応しているというのも嬉しい。

以下、使い方と感想。
・例として自分でPDF化したフランス語論文(OCR化していない)を使ってみた。

■使い方
i2OCRは、JPG - PNG - BMP - TIF - PBM - PGM - PPMには対応しているが、PDFには対応していない。
①そこで、まずPDFをJPGに変換する。
macの場合、プレビューで開き、[ファイル]→[書き出し]→JPGを選び、保存するだけでOK。
(winの場合は無料のファイル変換ソフトがいくらでもあるのでそれを利用)
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②あとはサイトの指示にしたがって、ファイルを選び、言語を設定、実行で終わり。
ただ大きめのファイルだとやや時間がかかる。

OCR化が完了すると、以下のような画面になる。
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左下がコピペ用。その他にDownloadボタンからtext, doc, pdf, htmlなどのファイルでダウンロードできる。


■感想
・フランス語だと、まあまあ正確に認識してくれたようだ。しかしpdfでダウンロードしたところ、アクサンなどに多く文字化けが見られた。左下のコピペ用のほうがまだマシ。

・日本語で試したところ、残念ながら使える代物ではなかった。

・正直無料だし、まあこんなものかという感じ。試みは素晴らしいとは思う。

『全体性と無限』・『存在の彼方へ』原典ページ対応表/ poche致命的誤植集(暫定版)

卒論用整理の副産物part2です(part1は前回のテクスト索引/著作目次一覧)。

 

レヴィナスの哲学的主著といわれる『全体性と無限』および『存在するとは別の仕方であるいは存在することの彼方へ』(以下『存在の彼方へ』と略記)の仏語原典には、それぞれPhaenomenologica第8 巻、第54 巻として出版されたいわゆるAcademic版と普及版であるLe Livre de poche版が存在しますが、両者では頁づけが異なっているので「ズレ」があります。

最近は、Phaenomenologica版の入手がやや困難(とくに『存在の彼方へ』)なこともあってか、研究書及び学術論文などでも国内外でpoche版の頁数を引用する論者も多いのですが(とはいえ、poche版には稀に誤植がある。)、依然として正式なアカデミック版を好んで使う論者もおり、あるいはpoche版出版以前のテクストの引用箇所にあたるためには、後者が必要になってきます。
そこで目次に即して節ごとに両者の対応を示し、大雑把ではありますが、少なくとも一方を持っていれば他方の該当箇所を容易に探し出し、把握可能にすることを目的として作成しました。したがって、1ページごとの対応は調べることはできません。

なお現在フランスで、草稿や遺稿、未完講演原稿などを含めた『レヴィナス全集(著作集)』(Œuvres complètes, Paris, Grasset/Imec, 2009-)が刊行中で、その第5 巻に『全体性と無限』・『存在の彼方へ』がともに所収される予定であるが、その際にいかなる頁づけがなされるかは予想できません 笑

また、これはあくまで試作版なので、「こうやった方が良いんじゃないか?」みたいなアドヴァイスが頂けると幸いです。

 

ファイルは以下のリンクから閲覧・ダウンロード可能です。

◯『全体性と無限』・『存在の彼方へ』原典ページ対応表

TI,AEページ対応表.pdf - Google ドライブ

 

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◯『存在の彼方へpoche誤植(暫定)
上記のように、poche版には稀に誤植が見受けられる。
その多くは些細なもの(,と.の打ち間違え、打ち忘れ等)だが、ときに致命的なものもある。
とくにその重大な誤植は『存在の彼方へ』に多く*1――仏語話者にとっても特異な文体であり、難解な意味内容のため誤植に気づかないからだろうか――、以下私が発見したものをここにリスト化していきたい(致命的なもののみ)。
他の誤植箇所を見つけた場合はお知らせいただけると幸いです。

poche p.163, l.16.
☓:...dans la responsabilité...
◯:...de la conscience...

poche p.198, l.19
☓:...l'opposé...
◯:...l'action...

 

*1:とはいえ、『全体性と無限』にも誤植がないわけではない。重大なものとして、例えば、poche, p. 151, l. 4. ...se perdre の直後 "dans le nulle part, se distingue de la présence"が欠落している